CM施策は仮説のすべてを検証できるわけではない
MZ:確かに、せっかくCMを作ったのに、その施策限りで次に活かせないのはもったいないですね。他にもありますか?
奥田:ここまで基本的な型として事前検証を中心に組み立てる方法を述べてきましたが、事前検証で弱い案であっても、時に本番検証に賭けることも必要だと思います。CMを「何を伝えるべきか(What to say)」と「どう伝えるべきか(How to say)」に分解して考えると、前者はコンセプトボード作りや手売りインタビューの実施で解消が可能です。
しかし、後者に関しては、本番検証をするまでわからない部分があります。タレントさんらしさや、CM制作のプロのこだわりを発揮した映像作品としての質感は事前検証では検証不可能です。事前検証で決めた案と、本番検証で賭ける案の2案を分散投資として実放映に流せば、リスクヘッジをしながら最大の成果を得ることができます。
CM制作における理想は「蓋然性」「クリエイティビティ」の両立
MZ:最新のCMである「“ス”タサプ・ダンス篇」の進め方も、これまで説明いただいたCMの作り方と同じですか?
奥田:はい、一緒です。まずはCM想起をしてもらうため視聴者に対する3C分析と、ご利用いただくためのターゲットに対しての3C分析をダブルで実施します。そして「Vコン調査」は定性を重視しながら進めていく形でしたね。「実放映」の際は、地方エリアなどでA/Bテストをしつつ、関東でも流してみました。それらの結果によって、放映比率を調整することで、リスクをコントロールしていきます。
CM制作における理想的な状態は、「蓋然性(確からしさ)とクリエイティビティの両立」だと思います。蓋然性を突き詰めるとハズレのない案になるため、どうしても表現の幅が似通い縮小均衡になりがちです。一方で、クリエイティビティだけを追求しても博打じみた世界になっていく。抽象的な話になりますが、これらを両立させるには「主観の客観化」を前提とした「主観の拡張」が大事になると考えています。
これまでお話ししてきた調査は、CM制作という主観的な事柄を客観化する方法でした。一方で、そもそも調査にインプットする仮説は、調査だけでは拡がり切りません。つまらない案を調査にかけても、つまらない結果が出てくるだけです。だからこそ、マーケターは調査という客観を前提として使いこなした上で、主観の質、つまり仮説の質を上げる方法を開発していく必要があります。
MZ:蓋然性とクリエイティビティの両立はまさにこの連載のテーマですね。次回からは、より具体的なクリエイティブ制作におけるポイントなどを伺っていきます。