お茶の間と調査では視聴態度が変わる
MZ:オリエンテーションの後に、STEP.2「Vコン調査」とSTEP.3「プレ調査」をするわけですね。
奥田:はい。先ほどのコンセプトボードは各要素が載った「点の集合体」ですから、すべてをCMに入れることはできません。そこで、放映2ヵ月前に行う「Vコン調査」では、マーケターとして検証したい案を持ちながら5案前後のVコンを作り、内容を詰めていきました。
この段階では、CMの目的や目標、顧客像、調査結果などを共有しつつ、たとえば初心者向けには「続けやすさ」を、中・上級者向けには「実績が出る」点を訴求するなど、CMの内容に仮説をそれぞれ落とし込んでいきます。
それらを基に実際の撮影を行うわけですが、実素材というものはVコンと比べ質感がまったく違います。したがって、この段階で視聴者反応が変わることも考えられます。そのため、時間に余裕があれば実放映の2週間ほど前に「プレ調査」を行うことがお勧めです。
MZ:最後に、いよいよSTEP.4の「実放映」ですね。
奥田:この段階で気を付けたいのは、実放映と調査空間、つまり実際のテレビ視聴と事前の定量調査では視聴態度が全然違う点です。意識的に集中して見て回答するのと、お茶の間でなんとなくと見るのとでは、受ける印象も記憶への残り方も別物ですよね。
プレ調査の反応がよかったものがテレビでも好反応である確率は高いものの、ずれる可能性も当然あります。そのため、最後にこの段階でも実放映でのA/Bテストを行うことをお勧めします。
「訴求の種」を集めながら仮説を作る
MZ:これらのステップを通して、大切にしていることを教えてください。
奥田:最終的にCMを完成させるには、膨大なパワーとコストが必要です。そのため、各ステップにおいて常にゼロベースで、よいCM仮説や訴求軸の幅と質を出せるかがポイントになると思います。コンセプトボードとして準備する段階で拾えなかった「訴求の種」も、手売りインタビュー(連載第1回で解説)の最中にひらめくこともあるでしょう。大切なのは、定性調査でそうした訴求の種を拾い集めておくこと。それらを組み合わせていくことで、効果的なCMが生まれます。
このように繰り返し定性調査の重要性を強調する理由は、定性調査で培った感覚値が「仮説」を生み出してくれるからです。マーケターの中に顧客像の手触り感がなければ、有効なCM仮説は出てきません。
また、事前の見立てから大きく結果が出た際も手放しで喜ばず、どのような構造で結果につながったのかを確認するように努めています。再現性がない結果は一過性のものになってしまうからです。