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「スタサプENGLISH」のCM開発に学ぶ!調査ドリブンと面白さを両立したクリエイティブを導くマーケターになるには

【CM制作陣×マーケター鼎談】良いCMクリエイティブを生むチームとは?マーケターの役割を考えよう

認知拡大やブランディングに大きな効果を発揮するテレビCM。しかし様々なハードル・進行上の課題に悩むマーケターや、コストの高さなどの理由でCM施策に踏み切れない企業も少なくない。本連載では、リクルートのオンライン学習アプリ「スタディサプリENGLISH」のCM開発に携わってきた奥田氏が、施策のフェーズごとに重要なポイントや、調査ドリブンと“データを超えた面白さ”を両立するクリエイティブ作りに必要な思考を解説。第5回では、実制作に携わった電通のクリエイティブディレクター川名氏と、東北新社のフィルムディレクター小栗氏も参加する形で、調査ドリブンなCM制作の現場について伺った。

「スタサプENGLISH」のCM制作陣が参戦!

MarkeZine編集部(以下、MZ):連載の最終回では、リクルート奥田さんに加えてCM制作に携わられたクリエイティブディレクターの川名さん、フィルムディレクターの小栗監督にも話を伺っていきたいと思います。CM制作においても、仮説検証や調査を重ねて勝率を高める「調査ドリブン」の流れが進んでいます。まずはここ数年における取り組みや、感じた変化についてお聞かせください。

川名:とてもデジタル的な流れだと感じています。小さくテストして、芽がありそうなものだけをスケールさせる。理にかなっているし、コスト面でも効率的です。また、磨き込むほど強いクリエイティブが手に入るという魅力もあります。一方、調査ドリブンが無条件に「無敵の制作プロセス」かというと、そう簡単な話でもないと思っています。

 結局、調査ドリブンにおいて大事なのは「何を調査にかけるのか」の部分であり、調査にかける仮説やアイデアをどこまで高いレベルで用意できるかが重要です。また、PDCAを回す途中で課題感も変化します。「その時々で最適といえる正解」を柔軟に探る姿勢も大切だと感じますね。

 つまり、調査ドリブンのコアにあるのは、メンバー同士の徹底的な議論です。たとえば、奥田さんはいつも考えられる論点を率直に全部出してくれますが、議論し尽くすことの価値を踏まえてのことだと思っています。

株式会社電通 CXクリエーティブ・センター グループ・クリエーティブ・ディレクター 川名宏昌氏電通入社以来、コピーライター、CMプランナー、クリエイティブディレクターとして、ブランディングから商品開発まで様々な企業コミュニケーションを手掛ける。2018年から約4年間の電通デジタル出向を経て、オンオフを高度に統合したブランドエクスペリエンスの創出を推進中。2020年から担当する「スタサプENGLISH」では、徹底的な検証を組み込んだCM表現開発にチャレンジしてきた。
株式会社電通 CXクリエーティブ・センター グループ・クリエーティブ・ディレクター 川名宏昌氏
電通入社以来、コピーライター、CMプランナー、クリエイティブディレクターとして、ブランディングから商品開発まで様々な企業コミュニケーションを手掛ける。2018年から約4年間の電通デジタル出向を経て、オンオフを高度に統合したブランドエクスペリエンスの創出を推進中。2020年から担当する「スタサプENGLISH」では、徹底的な検証を組み込んだCM表現開発にチャレンジしてきた。

小栗:確かに、これだけ議論のプロセスが丸見えになる仕事もあまりないかもしれませんね。クリエイティブを制作する側の目線でいうと、私たちは「世の中を振り向かせること」「広告として機能すること」の2つを考えます。その際、扱う情報の有効性や裏付けが取れている点は、調査ドリブンの良さだと感じます。

 昨今では、メッセージ量が過多なクリエイティブが多く見受けられます。15秒のCMのうち、ほとんどを情報で埋めたら「埋没するクリエイティブ」になることは避けられません。表現の持つポテンシャル、つまりジャンプの幅を広げたいなら、伝える内容を絞り込むことが必須です。そのためには、情報の取捨選択の判断が大事になります。

株式会社東北新社 プロダクション事業部 クリエイティブセンター/OND°/TFCPlus エグゼクティブディレクター 兼 企画演出部長 小栗洋平氏多摩美術大学を2000年に卒業した後、CMを中心に様々な映像演出を手掛ける。近年は、バーチャルプロダクション(LEDスクリーンを使う撮影技術)やプロジェクションマッピング、裸眼3Dビジョンなども携わり、社内ではAI研究も行うなど幅広く活動。「映像物の責任者」であるフィルムディレクター(監督)として、「スタサプENGLISH」のCMプロモーションを率いる。
株式会社東北新社 プロダクション事業部 クリエイティブセンター/OND°/TFCPlus エグゼクティブディレクター 兼 企画演出部長 小栗洋平氏
多摩美術大学を2000年に卒業した後、CMを中心に様々な映像演出を手掛ける。近年は、バーチャルプロダクション(LEDスクリーンを使う撮影技術)やプロジェクションマッピング、裸眼3Dビジョンなども携わり、社内ではAI研究も行うなど幅広く活動。「映像物の責任者」であるフィルムディレクター(監督)として、「スタサプENGLISH」のCMプロモーションを率いる。

奥田:そういう意味では、クリエイティブにおける「What to say」と「How to say」のバランスを取ることは本当に難しいですね。もし「What to say」だけを考えれば良いのであれば、マーケターだけでも一定の解を出し得るものと思います。

 ただ「How to say」を考えるとなると、映像表現として良いか、CMとして惹かれるのかも問われるため、マーケターだけで考えることは難しい。そのため、皆さんのCM制作のプロとしての視点と技術を借り、我々の視点も含めてチームとして一体化することで、良いバランスを議論、追求しています。

川名:そのバランスは、届けたい情報の質やターゲット層の嗜好・状態にもよりますからね。興味が顕在化している人たちが相手なら、より多くの情報を伝えたほうがいいとか。

小栗:議論を通して実現可能性の有無はわかりますよね。データだけ見ていると、そこがわかりにくくなってしまいます。

プレゼンテーションを無くし、議論を尽くす

MZ:本連載の第4回では、「スタサプENGLISH」のCM制作におけるオリエンテーションの工夫も伺いました。制作現場でのオリエンテーションは一方通行のプレゼンテーション型ではなく、議論ベースで進行されていたんですよね。

奥田:はい。ご提案をいただく際も、こちらからオリエンをさせていただく際も、すべて議論の時間を中心に組み立ています。CM制作現場における通例は、マーケターからまずオリエンをし、持ち帰っていただいて、次にプレゼンを受ける。それを再度マーケターが持ち帰って、社内フィードバックを取りまとめてお伝えする、の繰り返しで成り立っていると思うのですが、我々は相互にプレゼンを行う時間は一切無くし、時間のほぼすべてを議論に使っています。

 またオリエン前に、オリエンの内容自体を一緒に議論させていただき、検討することも行っていました。次回のプロモーションではどういったことを実現したいのか一緒に議論して、方向性を見出していくイメージです。本来であれば決め切って与件として展開するのが作法かもしれませんが、その与件自体も議論対象とすることで、チームとして認識が合うポイントを増やすことができます。

 CM制作慣習の中に存在する暗黙化した「不可侵領域」を取っ払い、本当に良いものを作るにはどうすれば良いのかをゼロベースで考え、生まれたのが今のスタイルです。

MZ:クリエイティブディレクターや監督の立場から見て、「スタサプENGLISH」のオリエンテーションや進行方法はどこが特徴的だと感じられましたか?

川名:特にユニークな点として、チームで交わす議論の量とそこにかける時間は圧倒的だと感じます。オリエンの時もプレゼンの時も、説明は早々に、議論にほとんどの時間を割くイメージです。

 プレゼン前に提出した資料に対して、奥田さんたちは毎回チームでしっかり読み込んで、議論のために緻密なメモを用意されています。成り行きで質問を重ねるのではなく、仮説を確かめるように進行するので、中身が濃く、発見が生まれやすいプロセスだと感じます。

 また、小栗監督のようなフィルムディレクターに企画作業の上流部分から最後のCM制作まで密に伴走いただくスタイルも、調査ドリブンアプローチのために初めて実践したものでした。Vコン(ビデオコンテ)で狙ったイメージが実際のCMに落とし込まれるまで監督がきちんと見てくれているので、調査が無駄にならないし、コミュニケーションコストも抑えることができます。

小栗:Vコンだけを担当するケースも、実制作だけ担当するケースもありますが、スタートからゴールまでのプロセスでイメージが一貫していないことはよくあります。リクルートさんのやり方は、最終的なゴールイメージから効率良く逆算でき、計算立てやすいのが強みですね。

 特に興味深かったのは、リクルートさんのCM制作ではクリエイティブについて「翻訳」する必要がない点です。テーブルについた皆と同じ言語で議論できるのは、マーケターサイドのリテラシーの高さがあるからこそだと感じました。

次のページ
マーケターが制作チームとやり取りする際のポイントとは?

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「スタサプENGLISH」のCM開発に学ぶ!調査ドリブンと面白さを両立したクリエイティブを導くマーケターになるには連載記事一覧

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この記事の著者

三ツ石 健太郎(ミツイシ ケンタロウ)

早稲田大学政治経済学部を2000年に卒業。印刷会社の営業、世界一周の放浪、編集プロダクション勤務などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。マーケティング・広告・宣伝・販促の専門誌を中心に数多くの執筆をおこなう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/12/25 08:00 https://markezine.jp/article/detail/46995

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