製品カテゴリーを超えた比較も可能
BRSの優れている点は、他にもあります。それは、異なる製品カテゴリー同士での比較ができることです。たとえば「パナソニック」と「ドン・キホーテ」と「資生堂」を比較することができます。またブランド・リレーションシップが高い製品カテゴリーや、低い製品カテゴリーを明らかにすることもできます。
もしブランド・リレーションシップが低い製品カテゴリーでビジネスを展開していたら、どうしたらよいでしょう。愛着が生じにくいカテゴリーだから、ブランド・リレーションシップの形成をあきらめてしまうというのは1つの考え方です。しかし戦略的に考えた場合、ブランド・リレーションシップが形成されにくいカテゴリーであるほど、ブランド・リレーションシップを形成できたときの効果は大きくなるとも考えられます。
連載第2回では「ペヤング ソースやきそば」のファンの事例を紹介しました。これまでの調査によると、食品カテゴリーにおけるブランド・リレーションシップは自動車やテーマパークと比べて、あまり高くないことがわかっています。しかし、そうした中で「ペヤング ソースやきそば」はしっかりとファンをつかみ、確固とした地位を築いています。
13年経ってもブランド・リレーションシップは揺るがない
ここまでお読みいただいた皆さんには、ぜひ実際にお手にとってご覧いただきたいのですが、拙著『ブランド・リレーションシップ』では2010年と2023年に行った調査の結果を公表しています。ブランド・リレーションシップ(あるいはファン・マーケティング)について、13年もの期間をおいて行われた調査は、おそらく世界でも他にありません。自画自賛のようになってしまうのですが、大変貴重なものだと思います。
2つの調査結果を比較してわかるのは、13年間もの時間経過あるにも関わらず、BRSが大きく変化したブランドがわずかだということです。これはブランド・リレーションシップが長期的に安定したものであり、容易には変化しないことを示しています。
まったく違う時期に、まったく違う人に尋ねたにもかかわらず、一貫性の高い結果が示されたということから、ブランド・リレーションシップが非常に強固な経営資源であることがわかります。同時にそれは、付け焼き刃では対応できないものであり、長い時間をかけて、戦略的に取り組む価値があるものであることも意味しています。
今回は、ブランド・リレーションシップの測定について説明しました。ブランド・リレーションシップは「態度」や「満足」とは異なるため、独自の測定尺度や評価指標が必要となります。そこで「ブランド・リレーションシップ尺度」や「ブランド・リレーションシップ・スコア」をご紹介しました。またブランド・リレーションシップ・スコアから読み取れるヒントについても、少し考えました。
次回はブランド・リレーションシップが形成されると、どのような効果が生じるのかについて考えていこうと思います。
【参考文献】
- Bergami, Massimo, and Bagozzi, Richard P.(2000). Self-Categorization, Affective Commitment and Group Self-Esteem as Distinct Aspects of Social Identity in the Organization. British Journal of Social Psychology, 39(4), 555─577.
- Sharp, Byron (2010). How Brands Grow: What Marketers Don't Know. South Melbourne, VIC: Oxford Univ Press. (前平謙二訳『ブランディングの科学:誰も知らないマーケティングの法則11』朝日新聞出版, 2018年)
- Tajfel, Henri, and Turner, John. C. (1979). An Integrative Theory of Intergroup Conflict. In William. G. Austin and Stephen Worchel(Eds.), The Social Psychology of Intergroup Relations (pp. 33─47). Monterey, CA : Brooks/Cole.
- 久保田進彦 (2020).「デジタル社会におけるブランド戦略:リキッド消費に基づく提案」『マーケティングジャーナル』39 (3), 67─79.
- 久保田進彦(2023).「リキッド消費とブランド戦略」田中洋編『デジタル時代のブランド戦略』有斐閣, 119─135.
- 久保田進彦 (2024).『ブランド・リレーションシップ』有斐閣.
- 久保田進彦・澁谷覚・須永努 (2022)『初めてのマーケティング[新版]』有斐閣.
- 芹澤連 (2003). 『戦略ごっこ: マーケティング以前の問題』日経BP.
- 森岡毅・今西 聖貴 (2016).『確率思考の戦略論: USJでも実証された数学マーケティングの力』KADOKAWA/角川書店.