ターゲット顧客にどのリレーションシップ・スタイルが合うか?
前回、ブランド・リレーションシップを形成するためには、「顧客のブランド経験」への理解から始める必要があるとお伝えしました。自社ブランドとの間にリレーションシップを形成している顧客が、過去にどのようなブランド経験をしてきたかを十分に理解できたら、次にターゲット顧客とリレーションシップ・スタイルの組み合わせについて考えます。

ブランド・リレーションシップには、プロパティー(小道具型)・アプローチとパートナーシップ(相棒型)・アプローチという、基本的な2つのスタイルがあります(詳しくは、第2回と第5回で解説。また本連載では説明を割愛していますが、2つのスタイルに加えて6つの側面もあります)。
ブランド・リレーションシップのマネジメントでは、自社ブランドのターゲット顧客にとって、これら2つのアプローチや側面のいずれかが特に大切かを検討します。
プロパティー・アプローチ
プロパティー・アプローチに基づいてブランド・リレーションシップを形成するには、自社ブランドが顧客にとって自己表現や自己確認の小道具となるように工夫する必要があるでしょう。つまり、「私らしさ」を表現したり、確認したりできるブランドとなるように、顧客のブランド経験をデザインしていくことになります。
しかし、ここで1つ疑問が生じるはずです。ブランドによって実感したり、表現したりする「私らしさ」は、どのようなものでも良いのでしょうか。
「私らしさ」のなかには、ネガティブなものもあるはずです。たとえば、「私は陰鬱で楽しくない人だ」と実感している人は、「陰鬱で楽しくないブランド」との間に絆を形成したくなるでしょうか。おそらく、そんなことはありません。消費者は、「自らが望む私らしさ」を実感したり表現したりできるブランドに、心理的な結びつきを形成しやすいと考えられます。
こうした観点に立つと、プロパティー・アプローチに適したブランドの傾向が見えてきます。具体的には、ブランド経験を通じて顧客を快楽的に喜ばせられる(gratify)、自分のことをより豊かに感じられるようにできる(enrich)、自己効力感や統制感を育み、自分の可能性が高まったように感じられるようにできる(enabling)ことです(Park et al., 2006)。自己を満足させ、豊かにし、自己の可能性を高めるブランドに対して、顧客は心理的結びつきを形成しやすくなるわけです。
なおこれら3つの要素を強化するのは、ブランドのステータス性を高めるという意味ではありませんので、気をつけてください。
パートナーシップ・アプローチ
パートナーシップ・アプローチに基づいてブランド・リレーションシップを形成するには、ブランドが、顧客にとって自らの経験や感情を分かち合ってくれる存在として認識され、「私たち」という視点から認識されるように工夫する必要があります。
ここで鍵となるのが、第5回で紹介した「プロパティー・パートナー・モデル」にも組み込まれている「並ぶ関係」です。並ぶ関係というのは、(a)すぐそばにいて、(b)向かい合うのではなく並び合うような位置にあり、(c)共通の関心を持ちながら、(d)一緒に何かをしている関係です。またそこには(e)同等で対等であり、(f)共感的なコミュニケーションが可能な状態にあるという意味が含まれています(やまだ, 1990)。
ブランドのパートナー化を促すには、顧客がブランドとの間に「並ぶ関係」を感じることが必要です。言い換えれば、顧客にとって「寄り添う」存在と認識されることが何よりも大切となります。