SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第105号(2024年9月号)
特集「Update:BtoBマーケティングの進化を追う」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座

ブランドと顧客の絆の強さはどう測る? 日本の自動車メーカー5社のスコア比較を例に解説【第3回】

 青山学院大学の久保田進彦教授による、ブランド・リレーションシップ入門講座の第3回です。今回は、ブランドとファンとの間に生まれる特別な絆「ブランド・リレーションシップ」の強度を測る方法を紹介します。また久保田氏が、13年間かけて計測した「ブランド・リレーションシップスコア(BRS)」の結果からわかった、4つの知見も紹介します。

ブランド・リレーションシップの強度をどう測るか

  ブランド・リレーションシップ入門講座も、ついに3回目となりました。前回はブランド・リレーションシップ(ブランドとの絆)の正体を探りました。そして(1)愛着と結びつきであること、(2)態度や満足とは異なること、(3)「小道具」「相棒」という大きく分けて2つのタイプがあることがわかりました。また、ブランド・リレーションシップは、満足度・好感度では測れないこともお伝えしました。

 それでは、ブランド・リレーションシップの強度(ファンの程度)は、どのように測ればいいのでしょうか。今回はその測定方法について説明します(図1)。内容的には、ぐっと実践的なものとなります。

図1 第3回目のテーマ
図1 第3回のテーマ

 ブランド・リレーションシップを測定する一番簡単な方法は、「あなたは◯◯◯(ブランド名)にどのくらい愛着を抱いていますか」という質問をすることです。この方法のメリットは、とにかくシンプルなことです。実査も容易ですし、その後の分析も簡単です。

 しかし消費者が感じるブランドとの結びつきは、とても複雑な心理現象です。その実態をたった1つの質問項目で正確に捉えることは難しいものです。複数の質問項目を組み合わせて用いたほうが良いはずです。

 こうした考えに基づき、私は15年ほど前に、ブランド・リレーションシップを測定する尺度を開発しました。「ブランド・リレーションシップ尺度(BR尺度)」と呼ばれ、企業でも実際に使用されています。

BR尺度を構成する3つの要素

 BR尺度は、ブランド・リレーションシップを構成する3つの要素に着目します。認知的要素、情緒的要素、評価的要素です。

 認知的要素とは、ブランドとの結びつきの感覚です。ブランドとの一体感や重なりの感覚といって良いでしょう。ブランド・リレーションシップが「自己とブランドの結びつき(self-brand connection)」であることを考えると、こうした要素が含まれるのは当然といえます。認知的要素はブランド・リレーションシップの基盤となるものです。

 情緒的要素とは、ブランドとの結びつきが生み出す、楽しさや喜びといった肯定的感情のことです。人は自分と強く結びついたもの(たとえば自分の子どもや自分の好きなチーム)のことを考えると、なんとなく楽しい気持ちになります。ブランドも同じです。大好きなブランドのことを考えると、楽しい気持ちや、ちょっと幸せな気持ちになります。そこで「ブランド・リレーションシップ尺度」には情緒的要素が組み込まれています。

 評価的要素とは、そのブランドや、そのブランドと関連する物事に対する肯定的な評価のことです。人は自分と強く結びついたものを、肯定的に評価しようとします。無意識のうちに「ひいき」をしてしまうのです。逆に、自分と強く結びついたものを否定されると、嫌な気持ちになります。こうした特性を利用して、「ブランド・リレーションシップ尺度」には評価的要素が組み込まれています。

 以上のようにBR尺度は、「あるブランドとの間にリレーションシップが形成されると、そのブランドに対して結びつきを感じながら(認知的要素)、楽しさや喜びを感じ(情緒的要素)、肯定的に評価する(評価的要素)」という考えに基づいています。そしてこれら3つの要素を同時に測定することで、リレーションシップの強度を把握します。

図2 ブランド・リレーションシップ尺度の構造
図2 ブランド・リレーションシップ尺度の構造

 もう少し硬い表現をすると、BR尺度はブランド・リレーションシップを「認知的要素を基盤としつつ、情緒的要素、評価的要素によって特徴づけられる高次概念」(久保田, 2024, p.66)と考えたうえで、これら3つの要素を同時に測定し、「ブランド・リレーションシップの強度として1次元的に集約する」(同, p.133)ものといえます(図2)。

 なお認知的要素、情緒的要素、評価的要素が、互いに密接に結びついた関係にあり、共変動するというのは、これまでの理論や調査などによって裏づけられています(e.g., Tajfel & Turner, 1979, 1986; Bergami & Bagozzi, 2000)。

 実際の尺度開発では、数多くの過去の研究を参考にして、3つの要素を的確に測定するための質問項目が作成されました。そして調査を繰り返すことで尺度の妥当性を確認し、合計9項目から構成される尺度が作られました。一連の作業では、4回の調査にわたり、合計7,000以上のアンケート回答を分析対象としています。

「ブランド・リレーションシップ・スコア」(BRS)

 BR尺度を用いて測定した結果を統計的に処理することで、ブランド・リレーションシップの強度を計算できます。私はこれを「ブランド・リレーションシップ・スコア」(BRS)と呼んでいます(図2)。

図2 ブランド・リレーションシップ尺度の構造
図2 ブランド・リレーションシップ尺度の構造

 BRSは、ブランド・リレーションシップの測定結果を偏差値化(平均=50、標準偏差=10)したものです。したがって、50以上であれば平均以上であり、50以下であれば平均以下ということになります。

 ブランド・リレーションシップの強度を測定できるようになると、色々なことがわかります。興味深い知見を、いくつかご紹介しましょう。

次のページ
ホンダ、マツダ、スバル、日産、トヨタをBR尺度で計測

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

久保田 進彦(クボタ ユキヒコ)

青山学院大学 経営学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。日本商業学会学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2024/10/22 09:00 https://markezine.jp/article/detail/46711

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング