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『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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生活者の声も、匠のノウハウも未来の成果につなげる。「スコープ販促創造研究所」が目指す業界連携と継承

 販促活動の担い手にとって、技術進歩と購買行動の目まぐるしい変化、LTV重視の潮流への対応策など、個社だけでは太刀打ちしにくい課題が増えている。専門的な知を結集するためにどうすべきか━━。2024年11月、販促支援に強みを持つ企業スコープが、購買行動を専門にする社内シンクタンク「スコープ販促創造研究所」を設立。生活者や大学との連携に基づいた分析、同社設立以降35年にわたり蓄積してきた販促技術や知見の棚卸しを行い、インサイトと販促手法の発信に取り組んでいる。同社経営企画本部長の内田智善氏と、データドリブンプロモーション事業本部のチーフマーケティングプランナーで研究所の所長に就任した多田みゆき氏に、販促業界で叶えたい未来と活動の現在地、企業に対する具体的な価値提供について聞いた。

販促活動を専門とするシンクタンクの誕生 背景に業界連携強化

━━今回スコープは、販促活動を専門とする社内シンクタンク「スコープ販促創造研究所」を設立されました。この研究所設立に当たり、前提となるスコープ全体のビジネスコンセプトについて教えてください。

内田:1989年4月1日に設立したスコープでは、36期目を迎える2024年の同日にパーパスを制定しました。「発想力と実現力で未来からほめられる仕事を。ワクワクが持続する社会を生み出す仕掛け人になる」というもので、これが今後10年間の成長に向けた指針になっています。

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スコープ 執行役員経営企画本部長 内田智善氏

内田:この先10年における成長のフェーズは大きく分けて三つ。まずは当社の持つ販促のノウハウや技術などの基盤を整備し、基礎となるデータを構築する「成長基盤形成期」です。小売の販促とは、「ヒトをお店につれてくる」「モノを買っていただく」「新しい価値、すなわち“コト”を提案する」が基本。私たちが過去35年間に蓄積してきた「ヒト、モノ、コトを動かす技術」をしっかり棚卸し、それを基にグループ力を高めます。

 次にこの販促技術を社会課題に適用して課題解決を実践する「成長活動実践期」。業界内外と連携した販促企業ネットワークを形成したいと考えています。業界内外のネットワークを形成することで、社会課題の解決力と世の中への影響力を高め、全国各地で奮闘している地元企業や自治体、印刷会社などに向けて当社のノウハウを提供。地域活性化に貢献したいと考えています。

 最後が、企業だけでなく社会からも頼られる価値を創造していく「安定成長状態期」。最終的には全国各地で活動しているNPOや学生の活動にもスコープのノウハウを提供し、スコープの基盤技術が世の中の社会課題解決に向けてネットワークを広げることを目指します。

 社内ではこのネットワークに関わる方々を「スコープ関係社員」とお呼びしており、スコープのノウハウ、想いを共有していただいた企業や、人材との連携を強化するこれらの取り組みは、様々な分野における影響力の発揮を目的としています。

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スコープの成長戦略における主な取り組みと、グループ内から外へと段階的に広がっていく影響範囲を示した図(クリックすると拡大します)

━━今回設立されたスコープ販促創造研究所はどのような位置付けになるのでしょうか。

内田:スコープ販促創造研究所は、これまで私たちが蓄積した販促ノウハウの棚卸し・整理を進め、外部の方々の協力を得ながら販促技術を高め、新たなノウハウを広く伝えていく場です。もちろん、技術の整備や強化をしていくだけではなく、これまでのサービスを体系化したソリューション「販促BPO」の展開にも同時に取り組みます。この両輪で市場に価値を提供することで、先ほどのネットワーク作りやビジネス創造に貢献できると考えています。

「買いたい」から「買い続けたい」という購買体験を追求

━━続いては、スコープ販促創造研究所の所長に就任した多田さんにお話を伺います。研究所として持つ問題意識について教えてください。

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株式会社スコープ スコープ販促創造研究所 所長/データドリブンプロモーション事業本部 チーフマーケティングプランナー 多田みゆき氏

多田: 昨今よく話題に挙がるテーマではありますが、人口減少や少子高齢化が進む中、社会構造は変化しています。それにともない、企業の販促活動の目的も「今、この瞬間に購買意欲を高めること」から、「生涯にわたって買い続けたいというモチベーションを創ること」へと大きく変化しました。つまりLTV(Life Time Value)を重視する傾向が年々高まっているのです。また他方では、テクノロジーの進化によって買い物という行動自体も大きく、目まぐるしく変化してきています。こうした変化に応じるためにはトレンドを追うだけではなく、新しい手法の創造にも挑んでいくことが必要だと考えています。

 私たちスコープでもスキーム開発に携わる中、従来の販促手法について「買っていただく機会を創ることは得意だが、ユーザーの体験価値が1回限りのものになっていないか」「持続性がないのではないか」という課題を感じていました。当研究所のテーマである『「買いたい」から「買い続けたい」を創る販促へ。』というキーワードは、社内で湧き上がっていた販促の考え方も変えていこうとの想いから生まれたものです。

━━スコープ販促創造研究所ではどのような取り組みを進めていくのでしょうか。

多田氏:研究所では「サイエンス系」「インサイト系」「トピック系」という三つのカテゴリーで販促創造にアプローチします。

生活者コミュニティとも連携 購買行動と販促を三方面から分析

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多田:サイエンス系は、リアルな購買行動を研究分析して未来の買い物のあり方などを追求する取り組みを指します。具体的にはリアルな売り場を使ったプロモーション施策の実証実験やキャンペーン・イベントの施策結果分析の蓄積、Web3などの最新技術を使った販促手法の創造などを進めます。

 インサイト系では、調査を基にした消費者のマインド分析を進めていきます。注力したいのは、買い物現場ですぐに活用できる消費者インサイトの掘り下げとその発信です。今後、社会変化による様々な買い物の課題が浮上してくると思うので、その課題解決に向けた支援や具体的なソリューション開発につながる方法を考えます。

 トピック系は、小売の現場で販促担当されている方がすぐ活用できる知見を発信していきたいと考えています。販促プロモーションの施策結果から見た効果的な方法であったり、数ヵ月先のトレンド予測であったり、効果的な売り場作りにつながるノウハウを提供しつつ、私たちが長年積み上げてきたセオリーを棚卸し・言語化して公開していく予定です。

 さらにこの三つの取り組みを当社だけで進めるのではなく、他の企業の方や生活者の方、行動経済学の専門家など大学の方々とも連携しながら進めたいと考えています。

 2024年7月にはオンラインコミュニティの専門会社と協力して、コミュニティサイト「毎日のお買い物“ワクワク”“モヤモヤ”研究会」を開設しました。生活者の方々の参加を促し、モニターとして、または次の販促を考えるパートナーとして携わっていただいています。このような連携を基に「ネットワーク型のシンクタンク」として輪を広げていく予定です。

毎日のお買い物“ワクワク”“モヤモヤ”研究会のトップより

内田:調査パネルを保有している研究所は他にもたくさんありますが、コミュニティ型であることは一つの大きな特徴です。アンケートだけではなく、アイデア出しや質問掲示板など、インタラクティブな試みを通じてインサイトや知見を蓄積してきたいと考えています。

店舗での実験、生活者の声などから行動やインサイトを分析

━━コミュニティサイトやトレンド分析など既に進めている活動の中で、現在どのようなインサイトや発見が得られているのでしょうか。貴社の直近の活動で得られた知見、おもしろい事例があれば教えてください。

内田:研究所が始まる前から携わっていた活動ではありますが、東芝テック様と共同開発して2024年6月に発表した、香りを活用したマーケティング手法「香りリテールメディア」もサイエンス系販促創造の一環と言えます。

多田:コーヒーやコスメを置いている什器の上からその香りを噴霧して、香りの刺激で買い方、売り場にとどまるか否か、その時間に影響は出るのかを数値化、成果を測る取り組みです。当社の小売店舗などを利用して実験を重ねています。

スコープのリリース、東芝テックのリリースより

内田:また当社のオフィスでは、香りと映像、音など五感を刺激することで購買行動がどう変化するのかという実験も行っています。この実験結果を売場やイベント会場などの場での活用に応用していきたいと考えています。また行動経済学がご専門の明治大学の後藤晶先生、視覚脳科学がご専門の横浜国立大学・岡嶋克典先生にもご協力いただいています。

━━先ほどのコミュニティサイトではどのような試みがありますか?

多田:コミュニティサイトでは現在約5,600人の方に参加していただいているのですが、参加者様の買い物に対する自由な発言が見られるのはもちろん、こちらからトピックを投げかけて回答が得られる場にもなっています。

 最近も、こちらから「何をきっかけに買い物をしていますか」と質問したのですが、意外にもチラシやテレビの影響が大きいという傾向がわかり、興味深い結果でしたね。内心、口コミやSNSの影響力の方が大きいのかと思っていたのですが、回答によるとチラシやテレビの影響は倍以上でした。これをきっかけにさらなるインサイトの深掘りにつなげたいと考えています。

━━インサイト系での事例はございますか?

多田:たとえば、私が所属するDDP事業本部がコーポレートサイトに公開した、イヤホンに関する調査コラムは今後発信していきたい情報に近いものです。

 このコラムは、ワイヤレスイヤホンがかなり普及した市場でも有線イヤホンが残っている状況に着目し、その商品選択の動機やニーズを深掘りすることを通じて、他のモノにも共通する汎用的な購買インサイトを発見しようとする内容です。ごく日常的なモノの購買活動に対する着眼のしかたが販促担当者にとってお役立ちになるのではないでしょうか。

 これ以外にも、買い物に対する意識調査やエシカル消費などの定点調査、他では見ないニッチな調査に注力し、後々の社会課題解決につながるインサイトを深掘りしたいと考えています。

数万店舗でもつつがなく進行する技 現場ノウハウを継承・活用

━━研究所としての成果発表はどのように進めるのでしょうか。

多田:今まではコーポレートサイトに掲載していましたが、スコープ販促創造研究所のWebサイトを立ち上げ、今後はそちらで発表していきます。

 Webサイトでは、先述したような調査結果の他に、識者の対談や、歳時動向予測、社内外の研究員コラムなどをコンスタントに掲載します。販促実験の結果分析や成果も研究所Webサイトを通して発信する予定です。また、まだ準備段階ですが、当社のベテラン社員が長年の現場経験から得た販促ノウハウを発信するシリーズコンテンツも考えています。

内田:コンテンツを作りながら社内のノウハウを棚卸しすることで販促技術の分類ができ、その結果として応用も進むと考えています。

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内田:ノウハウと言うと抽象的ですが、たとえばチラシのレイアウトの違いで集客も違ってくるんです。また、リアルな売場構築ノウハウをECサイト作りに転用することで、新しい販売手法が生まれることも期待できるなど、様々な分野での販促ノウハウの転用や応用が進むのではないかと期待しています。販促は売り場との連携も求められるものですから、キャンペーンによって発生する数万店舗規模のオペレーションを極力事故なく進めるためのノウハウも、当社にはやはり存在しています。そうした知見を体系化していくことは大きな意義があると思います。

━━今後の御社が展開する「販促BPO」のサービスについても教えてください。

多田:販促BPOは、実際にクライアント企業にヒアリングした声を基に誕生しました。

 企業が抱く、販促に関する課題は主に三つに分類できます。「データの利活用が十分に行き届いていない」という課題、「人手不足・生産性の低下」という販促の“守り”の課題、そして「自社の販促手法のマンネリ化」という“攻め”の課題の三つです。この三つの課題をベースに、当社が提供できる解決策をまとめたのが「販促BPO」になります。

 特徴は、販促に関する課題解決のBPOをワンストップで請け負うこと。そして、これまでスコープが数万店舗規模の小売企業と伴走して提供してきた価値を、多くの小売企業の皆様に提供していくということです。

 数万店舗の販促を運営するノウハウをワンストップで提供することで、劇的な効率化が期待できます。販促施策をチラシや売り場の領域ごと、施策ごとにバラバラに発注すればそれだけ事故も起こりやすくなりますし、コスト高も懸念されます。さらに施策のデータがバラバラだと、結局何が集客に効果的だったのかの検証が難しくなりますが、1社で施策をまとめることで効果検証がしやすくなります。効率化と成果、その検証まで一気通貫で価値を提供していくサービスです。

次の時代の販促を担う人材の育成にも貢献したい

━━最後に今後の目標や展望をお聞かせください。

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多田:まずは現場で課題を感じている販促担当者の方が参考にできる情報をタイムリーに発信し、今までリーチできなかった企業の方や、個店の販促担当者の方とつながる場となることを目指しています。全国津々浦々の販促担当者の方とネットワークを組むことで、企業の下支えだけでなく、日本の販促全体を支えて動かすシンクタンクになっていけると期待しています。

 今後様々な企業や研究者の方と連携して新しい販促手法を創造し、新事業をリリースしていく予定ですが、仮に上手くいかなくてもその結果を公開することで、他の企業や機関の取り組みの一助になれば良いと考えていますし、そこから得られるインサイトも多くあると思います。多くの方々にご覧いただきたいですね。

内田:活動はWebでの情報発信を軸と考えていますが、所長である多田を中心メンバーとしてセミナー登壇などのオフラインでの活動も展開していきたいですね。また学生やNPOの方々、地方の企業の方がすぐ活用できるように整備することを考えると、発信だけでなく、教育分野についても考える必要があるかもしれません。たとえば将来的には販促における教育機関のような形を作るなど、次の時代の販促を担う方々を応援し、スキルやモチベーションを高めていけるような場作りができると良いなと思います

スコープ販促創造研究所に関してご質問およびご相談をされたい方

 本記事およびスコープ販促創造研究所に関してご質問やご相談をされたい方は、スコープ販促創造研究所サイトのお問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社スコープ

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/11/19 11:00 https://markezine.jp/article/detail/47313