『しかのこ』公式がふざけることで参加を促す
TikTokの循環型エコシステム「Endless Cycle」を回すパワーとして、ディスカバー(発見)に加えて欠かせないのがファンコミュニティの形成だ。TikTok Japanが実施した調査によると、TikTokをきっかけにドラマや映画やアニメ、漫画を見始めたことがある人は71%もいる。しかもそのうち58%は、コミュニティ内で投稿された動画がきっかけだったという。
企業がTikTokでコミュニティのパワーを効果的に活用するためには、二つの重要な仕組みが存在する。「参加を引き出す仕組み」と「参加を応援する仕組み」である。これらをうまく取り込んだのが、アニメ『しかのこのこのここしたんたん(以下、しかのこ)』の事例だろう。
同作品を手掛けるツインエンジンでは、ユーザーの参加を引き出すため、思わずツッコミを入れたくなる動画を制作している。奈良県のマスコットキャラクター「せんとくん」とのコラボ映像や、主人公の被り物を被った人物と実際の鹿が踊る動画などを投稿することで、TikTokのコメント欄ではツッコミという名の参加が生まれたわけだ。
制作チームではコメント欄や「おすすめ」フィード、ハッシュタグをチェックし、視聴者の反応や傾向を継続的に観察している。当初は「踊ってみた」などの振り付け動画が中心だったが、次第にイントロ音源を活用した様々な創作動画が投稿されるようになった。この流れを受けて、公式アカウントでも企業CMのミーム動画や、マッチョな被り物が音源に合わせてポーズをとる動画などを制作。これにより、音源を自由に活用して楽しめる、参加自由なコンテンツであることを明確に打ち出していった。
ファンの参加を応援する「再投稿」機能
ユーザーの参加を応援する仕組みとして、ツインエンジンが活用したのはTikTokの「再投稿」機能だ。コミュニティユーザーの投稿を公式アカウントが再投稿することで、公式アカウントのフォロワーの「おすすめ」フィードにも表示される機能である。
なお、再投稿したコンテンツは、公式アカウントの投稿タブとは別タブで表示される仕組みになっている。ツインエンジンの宣伝プロデューサーを務める岡野亜耶氏は「公式の投稿とユーザーの投稿が混在すると、混乱を招く可能性がありますが、この表示形式によって積極的な再投稿ができています」と語る。
再投稿の対象を著名人やクリエイターに限定せず、一般ユーザーの投稿も含めて幅広く取り上げることで、コミュニティ全体の活性化を図ったツインエンジン。秩序を維持するため「再投稿しない基準」のみを明確にした。ファンの自由な表現活動を応援し、現在までで655本もの投稿を再投稿したという。自身の投稿が公式に再投稿されているのを見て、盛り上がったユーザーも多くいたようだ。
このように、TikTokでファンコミュニティの形成・拡大に成功したツインエンジンだが、結果的にビジネスにはどのような影響があったのか。同社の企画プロデュース部長を務める藤山氏は、グッズやコラボの相談の多さから、ビジネスインパクトの大きさを実感しているという。
「しかのこの場合は日本だけでなく海外のファンも多く、特にラテンアメリカのファンが多いんです。作品の持つ陽気な雰囲気が、ラテンアメリカの方の気質と親和性が高かったのかもしれません。TikTok上で話題を集めたことは、海外の方に作品を知っていただく大きなきっかけになったと思います」(藤山氏)
TikTokが提供する循環型エコシステム「Endless Cycle」は、ユーザーのアクションを生む。この循環のパワーを最大化するためのヒントが、4社の事例から示されたセッションだった。