SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』

「DE&I」の潮流に、縮小への方向転換が起こる可能性

静かにDEIを取り止める企業が続々と

 身近な「日本のトヨタ」の事例から紹介したが、2024年に入ってから、米国企業ではDEI活動の停止を発表する動きが相次いでいる。

 以下は、企業の公式発表では大きく取り上げられていないものの、そっと手を引くようにDEIを取り下げた企業の例だ。

DEIを取り下げた企業例(2024年報道より)

  • Apple:人事DEI担当幹部が異例の2年未満で早期退任(参考
  • コンサルティング企業のPwC:DEIへの注力は続けるとしつつ、エントリー・インターンの多様性要件を撤廃(参考
  • Tesla:イーロン・マスク氏のコメント「DEIは人種差別の別の言い方だ」への批判を受け、年次報告書からDEIへの言及を削除(参考
  • 農業・建築機器、トラクター販売のDeere & Co.:「ダイバーシティ・ノルマやその名称を掲げることは今後の会社の方針ではない」としてDEIイベントのスポンサード終了を発表(参考
  • Microsoft:DEIプログラムに数百万ドルを投じていたが、「もはやDEIはビジネス上重要ではない」としてDEIチームを解散(参考
  • 老舗バイクメーカーのHarley-Davidson:DEIプログラムを取り止め、「サプライヤーへの多様性支出目標」も設定しないと発表(参考
  • 大手ホームセンターチェーンのLowe's:DEIポリシーの一部を変更し、職場におけるLGBTQ従業員の包摂性を測るベンチマーク指標「HRC(Human Rights Campaign)」の年次調査やイベントスポンサーへの参加を中止(参考
  • 自動車メーカーのFord:DEIプログラムやLGBTQイベントへの支援、二酸化炭素排出削減目標を撤回し、その他の社会政策も見直しを行っている(参考

 振り返ると、McDonald’sも自社のホームページに記載していた「ESG」の文字をひっそりと消していた(2023年8月頃)。こうした「そっと手を引く」動きは表では目立たない。だからこそ、大手資本側が「一斉に」これほどの動きを見せたタイミングの意味合いに気づいておきたい。

表面的な「善き行い」ではなく自社の姿勢を貫き通せるか

 DEIは、人々を平等に扱い、差別をなくそうとするムーブメントだ。Washington Postが実施したDEIに関する世論調査(2024年6月)によると、回答者の6割がDEIの取り組みは「良いこと」と評価しており、多くの人が賛同しているとされている。

 日本の目線では、なぜ「良いこと」と思えることが否定的に捉えられるのだろうか、と不思議に思うかもしれない。

 企業の姿勢やマーケティング活動では、現在基準での正誤の議論だけでなく、今後数ヵ月先や数年先の動向の予兆を見る必要がある。鋭い感覚を持つ企業の動きが、次のヒントとなるはずだ。日本企業であるトヨタUSなど、上記企業例の判断も「なぜそのような判断に至ったのか」まで突き詰めれば、先行指標として考えられる。

 これらは米国に限った特例ではない。これほどの企業群が動く「根源的な力」には、企業側だけでなく国際的かつ政治的な経済影響も関わっている。現に、現在米国は大統領選挙とその開票結果で揺れている真っ只中というタイミングだ(執筆時は2024年10月)。

 目に映る報道や情報だけではつかめない、DEI方向転換のような傾向が既に静かに進行していることを日本で敏感に察知できるか――ここに次の4〜5年の大きな潮流に乗れるか否かの分かれ目がある。

 欧米では「DEI」だけでなく「ESG」「SDGs」「脱炭素」、さらには個人情報に関する「GDPR(General Data Protection Regulation)」「CCPA(California Consumer Privacy Act)」、そして「AIの安全性」といった言葉の概念やイメージ、使い方についても、画一的な現在のイメージではなく第2ラウンド、第3ラウンドを巡る多角的な見地が生まれている。

 日本でも同様に転換の兆しが身の周りで起こっているはずだ。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
米国最新事情レポート『BICP MAD MAN Report』連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2025/01/08 09:45 https://markezine.jp/article/detail/47444

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング