仕事の成果としていただく対価は、金銭だけではない
MZ:なるほど。仕事をしているすべての人が、マーケティングをしているんですね。
西口:はい。すべての人には顧客が存在し、仕事を通して何らかの便益や独自性を提案して、価値を成立させているのです。
マーケティング担当者でなくても、価値とは何かを理解し、生み出し続けることが重要です。なのでどんな仕事に従事する人でも、全員がマーケティングの基礎を知っておいたほうがいいと私は考えています。
MZ:ちなみに、それは営利組織でなくても同じですか?
西口:そうですね、NPOなどの非営利団体の活動やボランティア活動でも同様です。非営利の活動も、誰かに喜ばれる便益と独自性の提案を通して、価値を実現しようとしているのは同じですよね。対価が金銭である活動が営利的なビジネスで、金銭に限らないのが非営利の活動という違いがあるだけです。
たとえばボランティアで行われている近所の清掃活動も、価値を生み出しています。ここでの顧客(WHO)は住民やそのエリアを通る人、便益と独自性(WHAT)はエリアがきれいになることです。成立する価値は、顧客が「いつもゴミが落ちていたけれど、きれいになって気分がいい。前向きになれる、落ち着ける」などと感じることです。
もし顧客が、清掃のボランティア活動のことを知っていたら、活動に対して「ありがたい、ぜひ続けてほしい」と思うでしょう。「ありがとう」と感謝の言葉をもらえたら、活動が役に立っているという充足感を得られ、それは活動する側の対価にもなります。
すべては「顧客」に軸足を置くことから
MZ:確かに、それも価値が成立しているわけですね。逆に、誰のためにやるのかわからない、やっても価値がなさそうと思われるボランティア活動は、そもそも続かない気がします。
西口:そうなんです。営利、非営利にかかわらず、誰かを顧客としてそのニーズに合致しているかが重要なのです。誰かから「押しつけがましい」「迷惑」などと思われていたら、相手のニーズをきちんとつかめていないわけですし、活動する側の充足感も得られず続きにくいでしょう。
無償による行為であっても、基本的にWHOとWHATの構図、またHOWの位置付けは変わりません。どんな時も、WHOとWHATとHOWをきちんと分解して捉えることは、ビジネスや生きている上でのすべての活動にとって大切です。
MZ:WHOとWHATの仮説のピントがずれていたり、適していないHOWを選択していたりすると、どんな活動もうまくいかないんですね。
西口:マーケティングの核となるスキルとは、「顧客の気持ちになりきって、顧客にとってどういうものが価値になり得るかを想像する力」だと思います。言い換えれば、「顧客が『限られたお金や時間、体力、思考力などを投じてでも手に入れたい』と考える便益と独自性はどんなものがあるか」を、顧客自身として想像する力です。
第10回で顧客起点を図解しましたが、企業から見えることではなく、顧客の視点で見て考えることを忘れないでいただきたいです。