企業都合で考えると、顧客との距離はどんどん離れていく
MZ:顧客になりきる、ですか。難しそうだからこそ、いつも意識していないといけないのですね。
西口:その通りです。顧客を“何かを買わせる対象”として見ず、その人自身になりきって、その人を起点に何が価値になり得るかを想像すること。これが、マーケティングに欠かせない「顧客の洞察」です。
なので、どういう人がマーケターに向いているかというと、「人間に興味がある人」ですね。ビジネスパーソンには人間よりもお金儲けのほうに興味がある人もいますが、そういう人はたとえば売り上げが下がった時「顧客が価値を感じていない。なぜか? これは一過性か、それとも続くのか?」などと考えず、「もっと売らなければ、売れるように値下げしよう、プロモーションメールを増やそう、広告を増やそう」といった考えに走ってしまうのです。
もし社長や販売責任者、ブランドマネージャーなどがそういう人だと、顧客に立ち返らずに「何がなんでも売ってこい」「今月は売り上げ目標プラス20%だ」と部下に指示してしまうケースが起こります。すると部下は指示の遂行が目的になり、顧客を深く理解しようとしなくなる。おそらく、徐々に仕事にやりがいを感じなくなるでしょう。結果、その企業は顧客からどんどん離れていくことになります。
MZ:企業が顧客から離れるとは、先ほど挙げられた「想像」ができなくなる、「顧客の洞察」ができなくなるということですか?
西口:まさに、そうです。自分たちが、誰にどんな価値を実現して利益を得ているのか、わからなくなるのです。
常に顧客に立ち返ることが、マーケティングの成果につながる
MZ:そういう状態だと、結局は売り上げも上がらないですよね?
西口:その通りです。売り上げは顧客に価値を実現した結果なのです。焦って、さらに企業都合で「とにかく売り上げを」と考えると、余計に顧客から離れ、売り上げは回復しない悪循環に陥ります。ですので企業はどんな時も、特に状況が悪い時ほど、顧客の心理や行動に立ち返って考え続けることが大切です。
今回の記事のタイトル「マーケティングで成果を出すために大事なことは何か」に答えるなら、これまでの内容と重複しますが、やはり「顧客理解」が大前提です。そして、それは決して一部の天才マーケターだけが使える技術ではなく、ここまで紹介したN1分析をはじめとするメソッドを学ぶことで実現できます。
MZ:誰でもできる、といっていいのでしょうか?
西口:もちろん経験や努力は必要ですが、誰にとっても再現性があるはずです。実際、顧客を洞察することは、たくさんヒットを飛ばしたり取材されたりしている著名マーケターこそ熱心に行っています。これまで、天才マーケターといわれる方に数多くお会いしてきましたが、皆さん「何をやったら顧客に喜ばれ、評価してもらえるか」を必死に考え、試行錯誤しています。
生まれつきの天才はいませんから、試行錯誤の結果常に成功するわけでもなく、失敗も少なくないはずです。しかし、価値を作れなかった失敗を糧に悩んでさらに顧客に向き合い続ける人が、継続的な成果を出し、結果として成功しているのです。
そして、そういう人は往々にして優秀なリーダーでもあります。部下にも顧客を見る姿勢が根付き、結果的に企業もマーケティングで成果を上げられるようになるのです。
西口氏のマーケティング入門連載【第22回】はこちら!