「新しいブランド価値」を社内外に伝える難しさ
──新たなカテゴリーを確立していく中で、苦戦した点はありましたか?
まず、社内理解を浸透させるのに時間がかかりました。商品・流通を厳選していくということは、目先の売上になるものを手放すということでもあるので、当然、そこへの反対意見はありました。またアシックスは機能面へのこだわりが強いがゆえに、パフォーマンスとファッションを対極に置いてしまう傾向もありました。ライフスタイルへ手を広げ、ファッション性を訴求していくことは、パフォーマンス領域におけるブランドイメージを損なってしまうのではないか、と危惧する声もあったのです。
こうした懸念に対しては、実績を含めて、少しずつ理解を得ていきました。5年間の取り組みの中で、徐々にアシックスブランドに対する消費者のイメージも「ガチスポーツ」から「スポーツスタイル」へと広がっていき、若い世代のお客様との接点が生まれるカテゴリーに育ってきました。ライフスタイルがファースト接点となり、それをきっかけに「走るときもアシックスを使おう」という動きも出てきており、ブランド全体にとって、良い循環が生まれてきています。
対消費者に向けては、パフォーマンス色が強いアシックスのブランドイメージを、どうライフスタイルに広げていくか? はかなり思考した点です。まずはSNSを中心にライフスタイル面のコミュニケーションを強化していきました。
また自分たちだけでイメージを変えるのは大変なので、コラボレーション先と協業することで、違う側面を知ってもらうという取り組みにも注力しました。ブルガリア出身のデザイナーであるキコ・コスタディノフ氏をはじめ、数々のブランドとのコラボレーションを実現してきましたが、これらはやみくもに行っていたわけではなく、価値観を共感し合うことができ、コラボレーションによってシナジーを起こせるパートナーを選ぶことを大切にしてきました。
──「スポーツスタイル」の確立による成果についても教えてください。
新型コロナの影響もあり、最初の数年間は苦戦したのですが、2021年以降、じわじわと日常においても快適性を求める人が増えていき、スポーツスタイルの売上も徐々に拡大。昨年はY2Kブーム(Year2000の略で、2000年前後のファッションやカルチャーを指す言葉)にともなう「GEL-KAYANO14(ゲルカヤノ14)」などの大ヒットもあり、日本だけでなく、米国、中国など全地域で2桁成長を実現しました。

当社のデザインチームは日本だけでなく、米国や欧州にもいるのですが、欧州チームが、デンマークの一部の先行層の間で過去のアシックス商品が「おしゃれ」として人気が再燃しているという動きを掴んだことで、Y2Kブームに先駆けることができました。こうした取り組みができていることも、カテゴリーを確立した成果のひとつであると捉えています。これまでは、「今売れている商品」からアプローチを考えていましたが、現在では世の中で起きていること、価値観がどう変わっているのかを分析し、それに対して自分たちの強みをどう展開できるか?というアプローチの仕方ができるようになっています。
昨年より、新たにスポーツスタイルアパレルの取り組みも開始しており、ライフスタイルブランドとしての更なるプレゼンス向上にもチャレンジしています。
