ミニアプリの時代が到来。戦い方が変化する
「ミニアプリ」とは、様々なサービスを統合的に提供するメインアプリの中で利用できるアプリだ。ユーザーは都度アプリをインストールする必要なく、サービスや機能を利用できる。
講演の冒頭で、エボラニの宋氏はミニアプリの時代が到来するとし、それによって「戦い方やゲームのルールなど、様々なことが変化していく」と断言。セッションで、今後起こりうる動きや企業の戦い方について語った。
「ネイティブアプリの成長が鈍化し、さらに離脱率も改善されない中で、いかに新たにユーザーを獲得し、会員になってもらうか。新たな選択肢として、当社にもミニアプリの相談が昨年末頃から数多く寄せられています。2025年は大きな動きがあるのではないでしょうか」(宋氏)

ミニアプリが誕生したのは2017年の中国。当時はモバイルゲームバブルにより、一般企業の自社ネイティブアプリの集客コストが急激に高騰し、ネイティブアプリ同等の機能をより手軽に実現できる環境への需要が高まっていた。
これらのニーズに応えるため、中国最大手のチャットツールであるWeChatが「ミニプログラム」を発表した。その特徴として、検索エンジンを上回るユーザー数を有し、強力なソーシャル性を備え、ミニアプリ基盤上でネイティブアプリと同等の機能やサービスを実現できる点が挙げられる。結果として、短期間で100万人規模のユーザーが集まることに。結果、中国ではわずか1年間で約58万ものミニアプリが誕生し、その後も様々な変化が訪れたという。
ミニアプリ登場が起こす変化とは
宋氏はミニアプリが起こす4つの変化について紹介。まず第1の変化は、一般消費者のアプリ利用習慣である。従来、各サービスのアプリをダウンロードした後には、煩雑な会員登録と本人認証手続き、さらには各アプリへのクレジットカード情報の入力を求められるケースが多い。
しかしミニアプリの登場によりアプリのダウンロード自体が不要となり、会員登録手続きや本人認証も大幅に簡略化されるか、完全に省略される環境が実現した。さらにクレジットカード情報を複数のサービスに入力する必要もなくなった。各社のベンダーが自社の接客機能をミニアプリとして提供すれば、ユーザーはそのまま利用できる仕組みが構築可能となったのである。

こうして中国では、ミニアプリは消費者の日常生活のあらゆる場面に浸透し始めた。その後、企業や政府、個人事業主も自社のホームページ代わりにミニアプリを活用するようになった。他のプラットフォーマーも、このままではエンドユーザーの滞在時間がWeChatにシフトしていくことへの危機感から、続々と自社のミニアプリプラットフォームを開放するようになった。
ミニアプリはWeb技術を基盤としているため、一度開発すればロジック上は他の様々なプラットフォームにも展開可能だ。そのため、同じ機能で接触できるユーザーの母数を一気に拡大することができる。
「Temu」運営企業に見る、ミニアプリ時代の効果的な集客方法
続く第2の変化は、集客方式だ。従来のLINEの友だちを増やす主な手法は、広告や、日本の場合はスタンプキャンペーン、SNS運用、そして店頭スタッフに積極的な働きかけを促すことだろう。
ミニアプリ登場後の中国では、ゲーム性やバイラル性を重視したキャンペーンが主流となっている。たとえば、ECサイト「Temu」を運営するPDDホールディングスは自社システムを完全にミニアプリに移行。毎日十数本のゲームキャンペーンを継続的に展開する運営スタイルに転換した。

具体的には「毎日10名様に無料で最新モデルのiPhoneをプレゼント」といった案内を行い、初回来訪者には1回のチャンスを提供し、2回目以降は友達の紹介やミッションクリアを条件とする仕組みを構築した。友達がさらに他の友達を呼ぶバイラル効果により、わずか1年間で約1億人のMAUを実現。そして2018年、創業3年目にしてNASDAQ上場を果たし、時価総額は当時3兆円を超えた。現在はEC領域において世界第2位の地位を確立している。
中国における成功が、日本市場でも通用するのか。この問いに対し、宋氏は「確実にフィットする」と断言する。過去数年間、ハイブランドから小規模店舗まで、様々な業界・業態で数百件以上のゲームキャンペーンを実施してきた経験からも明らかだという。
「勝ちパターン」も変化するミニアプリ時代
ミニアプリがもたらす第3の変化は、戦略と勝ちパターンだ。従来のLINE運用といえば、配信とOne to Oneのチャットが主流であった。しかし、これらの手法にはコスト面などに課題がある。加えて、効果測定においても多くの企業が中間KPIやエンゲージメントに留まってしまう傾向もある。クリック数や閲覧数に焦点を当てるものの、どのようなユーザーがクリックしたかという情報すら把握していない企業も存在するのが現状だと宋氏は指摘した。
ミニアプリでは、最初からCV、友だち紹介、リピート利用をゴールに設定しており、そのための行動を促す仕組みのデザインやPDCAを回すことが重要となる。

具体例として紹介されたのは、中国において数百の店舗規模をもち、グローバル展開もしていた飲食店企業の事例だ。同社はミニアプリの仕組みをデザインする際、ユーザーの属性情報や行動情報を詳細に分析。その結果、来店者の過半数がトップ3の商品を常に注文していることが判明した。また、健康志向の顧客が比較的多い他、朝食目的での来店者も相当数存在することもわかった。
これらの分析結果を受けて、3パターンのサブスクリプション形式の会員制度を構築した。まず、定番商品を注文する顧客に対して、月額300円程度の支払いで毎回来店時にトップ3商品が常に10%オフとなる制度を、そして健康志向の顧客や朝食目的の顧客向けに、専用のスペシャルメニューや特別割引を同様に提供した。
また、競合との差別化と継続的な来店促進のため、毎週月曜日を「会員の日」として設定。会員にクーポンを1週間分配布する仕組みを導入した。さらに、曜日別で異なるクーポンを受け取れる設計にしたのだ。
このような仕組みをミニアプリで実装する際の工夫点として、すべての料金表示の下に会員価格を明示し、メニュー一覧では会員限定メニューを目立つ位置に配置したことを氏は紹介した。加えて、ユーザーがレジで会計する際、合計金額表示画面の上にポップアップを表示し「今、会員になれば200円割引が適用される」旨を訴求した。
これらの施策により、わずか1年間で来店リピート率を約2.5倍、売り上げも約2倍まで引き上げることに成功した。店舗数を増加させることなく、かつ大規模な配信も行わない環境下での結果だ。
ネイティブアプリとミニアプリの比較は?
第4に、ミニアプリは実現手段の変化ももたらす。ネイティブアプリと比較すると、Web技術を使用するミニアプリのほうが開発期間を短縮できる他、コストも抑制できる。加えて、審査期間の短縮や機種多様性への対応といった煩雑さも解消される。また、チャットボットと異なり、追加開発などで複数のベンダーと同時に取り引きすることも可能だ。
さらに、ミニアプリは従来のネイティブアプリと共存できる設計となっている点も特徴的だ。ネイティブアプリを構築する際はバックエンドのAPIが既に用意されているケースが比較的多く、ミニアプリに移行する際はミニアプリのUIのみを再構築すれば済む場合が多いという。
ミニアプリ時代の波に乗り遅れないために
ミニアプリが創り出す世界観を日本でも実現するため、宋氏率いるエボラニは2018年にanybotを立ち上げた。
anybotは売り上げアップに最適なコンテンツをノーコードで作成できるLINEと連携できるクラウドサービスだ。抽選やスタンプ、ゲームキャンペーン、ミニアプリなど顧客満足度の向上に効果的なコンテンツが充実している他、顧客データの自動管理やセグメント配信も可能で、リピート率向上も見込める。LINEから唯一直接出資を受けたLINEツールでもあり、これまで構築されたミニアプリの数は既に6万件を超え、海外進出も開始している。
宋氏は「2025年、日本でも大手企業各社が動き始めるなど、ミニアプリが拡大するタイミングが来ています」と見解を示し、ミニアプリの時代を迎えるにあたりanybotは開発や企画の悩みを次のように解決すると述べた。
開発面
anybotは、たとえば予約システム、会員証、売れ筋ランキング、投票システムなどをミニアプリ形式で構築することで、ユーザーとの深いコミュニケーションをノーコード・ローコードで実現可能にする。さらに今回、これらの機能を無料で利用できるコミュニティ版をリリース。上級者向けには、段階的にCSSやJavaScript、高度な外部連携機能なども今後利用可能になる予定だ。
また、開発面で特に重要なのはキャンペーンである。エボラ二は過去にサポートした様々な業界の多様なキャンペーンから、どのようなニーズが存在し、どのようなシステムがあればニーズをある程度カバーできるかという概念を抽象化し、キャンペーンパッケージを構築している。
運営面
KGIを先に決定し、因数分解を行って現状の数字を適切にトラッキングし、どの数字を伸ばすかを明確化することを可能にする。その後、施策のボリュームとして大規模キャンペーンやイノベーションを実施するか、マイナーなチューニングから始めるかを決定する。
またよくある課題として、そもそも数字のトラッキングができていない企業が極めて多い点が挙げられる。さらに、キャンペーンやチューニングを実施する際に莫大な開発コストが発生し、その成果に対する数値的保証もないため、判断を躊躇するケースが多い。その点、LINEミニアプリはデータトラッキングができるため、一気通貫での把握が可能だ。
企画面
時間や知識、リソースの不足から企画面で課題を抱える企業も少なくない。これに対し、「企画ネクスト」というコミュニティを新規オープン。ここでは、多数の信頼できる企画専門家、マーケティング専門家、デザイナー、開発専門家などが課題に対する解決方法を提案する。
最後に宋氏は「現時点で何らかの課題を抱えている方やミニアプリに興味がある方、そして漠然とした不安を感じている方、様々な方がいらっしゃると思います。LINEミニアプリという新しい波に乗り遅れたくない方々はぜひお声がけください」と講演を締めくくった。