「Made in Japan」から「Made for America」へ
前回は、トランプ政権の再登場による関税強化という逆風の中でも、日本製品が長年かけて築いてきた「品質」や「信頼」という資産を武器に、価格ではなく価値で選ばれるブランドとして米国人の共感を得るストーリーテリングの方法について解説しました。
その「価値」を米国の消費者にどう伝え、どう響かせるのか。その鍵となるのが、マーケティング・PR視点での戦略的なローカライズです。
ローカライズというと、商品設計やパッケージの英語表記といった表層的なイメージを持たれがちですが、実際に米国人の心に届くには、彼らの文化・感情・生活習慣に合った語り方・見せ方・共感の作り方が求められます。日本ブランドの強みを保ちつつ、現地の消費者の「自分ごと」として価値を届けるには何が必要か? 今回は、過去の日本企業協業や、米国に浸透した日本文化の背景をもとに、マーケティング・PRの視点から考えるローカライズ戦略のヒントを紐解きます。

トランプ政権が、自国の利益を最優先する姿勢を強調しています。この方針の下、日本企業が「Made in Japan」を前面に押し出すことは、政治的リスクを伴う可能性があります。
米国内でもAppleは過去に米国内での投資計画を発表し、関税免除を受けるなどの交渉を行ってきました。 また、ソフトバンクの孫正義CEOも、米国内での大規模投資を通じて、トランプ氏との関係を構築しています。
このような事例から、日本企業も先行き不透明な中では、現地企業との協業や、米国内での投資を通じて「Made in USA(米国産)」や「Invest for America(米国への投資)」といった企業のPRメッセージを発信していくことも戦略のひとつに入れていく必要があります。
戦略的ローカライズの重要性と成功事例
1980年代、日本企業はすでにその試金石を経験しています。代表的なのが、三菱自動車工業とクライスラーの協業です。当時、日米間では自動車輸出が政治問題となり、日本車に対する関税や輸入制限が取り沙汰されていました。そうした中で、三菱自動車工業はクライスラーと提携し、自社の小型車を米国ブランドとして展開。「Dodge Colt」などの名称で販売し、販売・広告・サービス体制すべてを米国の文化に適合させました。これは、製品の物理的輸出ではなく、ローカライズされたブランド体験の輸出だったといえます。
現地パートナーとの提携では、現地のディーラーネットワークを活用して、即座に全国展開することも可能でした。マーケティングでも、日本の技術力と米国人の納得感を演出する工夫がされていました。「Japanese. Made Easy(日本語を簡単に)」、つまり競合の名前のような難しい日本語ではなく「Colt」と米国人に親しみやすく、さらに日本の技術力を楽しめるというメッセージです。

前回紹介した森永製菓の「Hi-Chew」もマーケティングでは、米国文化との融合に力を入れてきました。MLB(メジャーリーグ)とのパートナーシップを結び、球場やクラブハウスで配布されることで、「米国のスポーツ文化の一部」として定着していきました。さらに、ノースカロライナに現地工場を設けることで、『Made in USA』表記を可能にし、流通と認知の両面でローカライズを加速させました。