SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第113号(2025年5月号)
特集「“テレビ”はどうなる?」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

トランプ政権で変わる米国コミュニケーション戦略

北米で刺さるキャッチコピーの作り方とは?先行事例から学ぶ「ローカライズ」と「共感の設計」

 ドナルド・トランプ氏が再び米国大統領に就任し、アメリカ・ファースト(自国第一主義)の政策を強く押し進めています。特に、輸入品への関税強化や海外企業への圧力が再び強まる中、日本企業はどのようにこの状況を切り抜ければいいのでしょうか。本稿では、米国市場向けPRとマーケティング支援を行い、カナダ在住の神村 優介氏が、消費財(食品、飲料、生活雑貨、アパレル、エンタメなど)を扱う日本企業において、今後米国市場で勝ち残っていくために必要な「価値訴求型コミュニケーション」の視点と、その背景にある市場の変化を、具体的な事例とともに解説します。第2回となる今回は「ローカライズ」について解説します。

「Made in Japan」から「Made for America」へ

 前回は、トランプ政権の再登場による関税強化という逆風の中でも、日本製品が長年かけて築いてきた「品質」や「信頼」という資産を武器に、価格ではなく価値で選ばれるブランドとして米国人の共感を得るストーリーテリングの方法について解説しました。

 その「価値」を米国の消費者にどう伝え、どう響かせるのか。その鍵となるのが、マーケティング・PR視点での戦略的なローカライズです。

 ローカライズというと、商品設計やパッケージの英語表記といった表層的なイメージを持たれがちですが、実際に米国人の心に届くには、彼らの文化・感情・生活習慣に合った語り方・見せ方・共感の作り方が求められます。日本ブランドの強みを保ちつつ、現地の消費者の「自分ごと」として価値を届けるには何が必要か? 今回は、過去の日本企業協業や、米国に浸透した日本文化の背景をもとに、マーケティング・PRの視点から考えるローカライズ戦略のヒントを紐解きます。

 トランプ政権が、自国の利益を最優先する姿勢を強調しています。この方針の下、日本企業が「Made in Japan」を前面に押し出すことは、政治的リスクを伴う可能性があります。

 米国内でもAppleは過去に米国内での投資計画を発表し、関税免除を受けるなどの交渉を行ってきました。 また、ソフトバンクの孫正義CEOも、米国内での大規模投資を通じて、トランプ氏との関係を構築しています。

 このような事例から、日本企業も先行き不透明な中では、現地企業との協業や、米国内での投資を通じて「Made in USA(米国産)」や「Invest for America(米国への投資)」といった企業のPRメッセージを発信していくことも戦略のひとつに入れていく必要があります。

戦略的ローカライズの重要性と成功事例

 1980年代、日本企業はすでにその試金石を経験しています。代表的なのが、三菱自動車工業とクライスラーの協業です。当時、日米間では自動車輸出が政治問題となり、日本車に対する関税や輸入制限が取り沙汰されていました。そうした中で、三菱自動車工業はクライスラーと提携し、自社の小型車を米国ブランドとして展開。「Dodge Colt」などの名称で販売し、販売・広告・サービス体制すべてを米国の文化に適合させました。これは、製品の物理的輸出ではなく、ローカライズされたブランド体験の輸出だったといえます。

 現地パートナーとの提携では、現地のディーラーネットワークを活用して、即座に全国展開することも可能でした。マーケティングでも、日本の技術力と米国人の納得感を演出する工夫がされていました。「Japanese. Made Easy(日本語を簡単に)」、つまり競合の名前のような難しい日本語ではなく「Colt」と米国人に親しみやすく、さらに日本の技術力を楽しめるというメッセージです。

HI-CHEW™ partners with Chicago Cubs for 2023 season(プレスリリースより

 前回紹介した森永製菓の「Hi-Chew」もマーケティングでは、米国文化との融合に力を入れてきました。MLB(メジャーリーグ)とのパートナーシップを結び、球場やクラブハウスで配布されることで、「米国のスポーツ文化の一部」として定着していきました。さらに、ノースカロライナに現地工場を設けることで、『Made in USA』表記を可能にし、流通と認知の両面でローカライズを加速させました。

次のページ
カリフォルニアロールから学ぶ、ローカライズ

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
トランプ政権で変わる米国コミュニケーション戦略連載記事一覧
この記事の著者

神村 優介(カミムラ ユウスケ)

 シェイプウィン株式会社 代表取締役 ShapeWin Canada Ltd. CEO

 2011年に日本と北米に拠点を置くPR&デジタルマーケティング会社シェイプウィン株式会社を創業。2021年からカナダ・バンクーバーを拠点に置き、日本の大手製造業や韓国のスタートアップを中心に北米市場でのマーケティングを支援...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2025/06/16 09:00 https://markezine.jp/article/detail/49284

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング