シーズ開発担当者が明かす、アイデアの粒度・完成度よりも大切なこと
米田:藤井さんは、N1とペルソナについてどう感じていますか?
2010年入社。「お客様生活文化研究所」で生活者研究に従事した後、商品開発部でRTD・ノンアルコール・ビールの開発に携わる。産休・育休を経て、2021年にコミュニケーションデザイン部へ異動し、3年間コミュニケーション領域を担当。2024年より現チームに所属し、シーズ開発の壁打ちや新商品開発、「空想開発局」でのコンテンツ企画・商品開発などを担う。
藤井:私は企画になる前の段階のシーズ開発を担当していますが、持ち込まれるアイデアは本当に様々で、完成度もバラバラです。「このアイデアにN1っているの?」と聞いても、ときには「正直いません」と答える人もいます。
しかし、それをどうやって提案の形にしていくかを話し合っていく中で、「どうしてそのアイデアをおもしろいと思ったのか」を掘り下げていくと、気がつくと目の前にいる人がN1になっていたり、「それ、わかるな」と、みんなも共感し始めたりして、だんだんアイデアが形になっていく。それがおもしろいなと思います。
米田:最近印象に残ったケースはありますか?
藤井:ある若手男性社員が、“自炊男子”のInstagramのアカウントを持ってきて、「こういうのを見ながらちゃんと料理をして、うまいお酒を一緒に飲みたいと思っている。そのときあるべきお酒って何だろうと考えた」と言うんです。そのアカウントの男性は雰囲気があっていかにも「モテそう」という話になり、そう言えば「自炊男子」とか「モテ」というキーワードから着想するのはおもしろいし、新しいアプローチになるかもしれない、と話が盛り上がりました。
つまり、アイデアの粒度は多少粗くても、その人らしさや、これがおもしろいと思ったポイントがあると、話は広がります。私は映画監督のマーティン・スコセッシが言った「最も個人的なことが最もクリエイティブだ」という言葉が好きで、大切にしています。みんなの「好き」や「思い」を起点に開発することで、自然と話は楽しくなり、クリエイティブなものが生まれると考えています。
研究所主導のECサイト「アサヒ空想開発局」とは?
米田:では話題を変えて、ここからはECサイト「アサヒ空想開発局」についてうかがっていきたいと思います。研究所が起点となってECサイトを運営しているのがおもしろいですね。
佐藤:これまでは、研究所や開発担当者が届けたいターゲットやシーンをイメージして処方設計等をしても、様々な手が加わるうちに最終的に全然違うものになってしまったり、開発者が自信を持って作ったものでも、調査結果がイマイチという理由で、商品化されずにそこで中止となり、その後の開発に活かされなかったりしていました。
そこで、研究所や開発担当者の想いを何とかお客様に届けて、しかもお客様の声をダイレクトにフィードバックしてもらうことで、さらに良いものを作っていくことはできないかと考え、D2Cのチャネルを立ち上げました。
米田:「アサヒ空想開発局」というユニークな名前には、どんな思いが込められているのですか。
藤井:このサイトのコピーに、「好きだから空想する。好きだからカタチにする。」というのがあります。もちろんテストマーケティングの機能は大事なのですが、だからといって、私たちが一方的に商品を届けるのではつまらない。「好き」をキーワードに、お客様と同じ目線で、同じものを楽しいねとか素敵だねと言える場所をつくり、共感・発信していく「開発局」でありたいと考えています。
寺門:サイトには、開発者の好きやこだわりがつまった、挑戦的で個性豊かな商品を販売する「チャレンジラボ」というカテゴリーがあります。そこから発売した「アサヒ スパイスビール」は、通常の調査フローではニーズが見えにくく、前に進まなかった商品でした。ECサイトという販路があったからこそ世に出せた商品と言えます。チャレンジラボのサイトには「ラクガキ機能」を新たに取り入れて、お客様がスタンプでリアクションをしたり、コメントを入れたりできるようにしています。
