高級コーム、美容医療、耳つぼジュエリー……「見返り」を重視する、働く世代のセルフケア
MarkeZine:一方で、働く世代のセルフケアは、より積極的だというお話でした。具体的にどのような行動や傾向があるのでしょうか。
川畑:自分の心身の状況に気づいて、能動的に「やらねば」と、セルフケアに取り組む人が多い傾向です。そのなかでも特に働く女性は、「投資対価値」を意識する傾向が強いのではないでしょうか。たとえば、高級コームや美容医療、マットレス、耳つぼジュエリーなど、高額でも見返りがあるものが流行していると感じますね。
辰野:また、忙しい社会人にとっては、手段を選ぶこと・考えることもストレスになり得ます。最近は付けるだけ、塗るだけといった、深く考える必要のないセルフケアグッズの需要が高まっていますね。SNSでは、いろいろな商品を提示する投稿より、「とりあえずこれを買っておけばOK!」と断言するような投稿のほうが伸びているのも見かけます。

MarkeZine:情報社会ならではのストレスと、それを回避するためのニーズですね。
辰野:加えて、フェムケア・フェムテック領域の動きも興味深いです。女性の健康課題がこれまで十分に語られてこなかった背景もあり、話題になっていますよね。これまでタブー視されてきた月経や更年期などの話題が、徐々にオープンに語られるようになってきて、「心と身体を癒やす」という文脈で健全なセルフケアとして認識され始めているのも、大きな価値観の変化だと感じています。
セルフケアのトレンドをマーケティング戦略に活かすには?
MarkeZine:ここまでセルフケアの具体的な傾向を伺ってきましたが、マーケティング観点でセルフケアのトレンドをどう活かしていけばいいのか、ポイントを教えてください。
川畑:セルフケアをマーケティングに活かす際、大きく分けて3つのポイントがあると考えています。
1つ目は、潜在的なニーズを顕在化させること。多くの人は潜在的に疲れや悩みを抱えているものの、言語化して提示しなければ、なかなか自分自身で気づけないものです。たとえば、「ファンデーションは肌の負担になるもの」という諦めに近い固定概念を覆し、「ファンデーションでスキンケアできる」ことを提示したからファンデ美容液が流行りましたし、「睡眠改善がどれだけ生活を向上させるか」を提示したから睡眠グッズが流行りました。狙ったターゲットへピンポイントに、「まさに私の悩みかもしれない」と共感してもらったうえで、具体的な解決方法を伝えていくことが重要です。
2つ目は、既に顕在化した悩みに対して、従来とは違う新しい提案をしていくこと。たとえば、耳つぼジュエリーは、「身体に良い」だけでなく「かわいく、人に見せたくなるセルフケア」だったからこそヒットしました。既存の商品でも、新しい視点や切り口によってセルフケアの文脈で脚光を浴びることができるかもしれません。
3つ目は、「投資に見合った明確な効果があること」をファクトで伝えることです。最近は消費者が非常に賢くなっていて、「なんとなく良さそう」だけでは受け入れられません。たとえば化粧品なら、具体的な成分や技術を明確に示すこと、またベストな使用方法やタイミングまで、パッケージとして提案することが望ましいです。
セルフケア市場のキーワードは「精神安定」
飯野:化粧品といえば最近、使用方法や工程が独特で手間のかかるものも増えてきましたよね。たとえば、「1剤と2剤が分かれていて、使う前に混ぜる」といった一見面倒そうに見える製品も登場しています。手間をかけるからこそ、効果がありそうと感じる消費者心理も影響しているのではないでしょうか。ただ、ぐるぐると時代は回るものですので、「手間のないオールインワンスキンケアが楽」という需要も、いずれまた高まるかもしれませんね。
辰野:どんなジャンルの商品であっても、昨今のセルフケアは「精神安定」が共通のキーワードだと考えています。「見るだけで癒やされる」「かわいいだけで幸せになれる」「争いや炎上がない」といった“精神安定剤”が、世の中から求められている時代です。セルフケア市場は、時代のニーズに応えるようにこれからも新しい商品やサービスが次々と生まれ、さらなる拡大が期待できることでしょう。
\ポイント/
● 働く世代のセルフケアは「見返り」重視
● 「なんとなく良さそう」ではなく、具体的な成分や技術、最適な使用法など「効果に対するファクト」を求める
● セルフケアの共通キーワードは「精神安定」