スギ薬局とイオンのリテールメディア、“事業”としての現状は?
MarkeZine:はじめに、2社のリテールメディア事業の現状から聞いていきたいと思います。スギ薬局の「スギ薬局アプリ」はロイヤルユーザーが多いと聞いていますが、事業としてはどのような状況ですか?
ロイヤル顧客が集まるMAU650万超の「スギ薬局アプリ」
スギ薬局・増田:当社が「リテールメディアとしての事業価値」を意識し始めたのは比較的最近です。私が所属するDX戦略本部が2021年に立ち上がる以前から、アプリは1,000万ダウンロードを超え、クーポンによる一定の収益はありました。しかし、そこに「リテールメディア事業としての可能性がある」とは意識していない状況でした。
2023年にアプリを刷新し、顧客体験を第一に考えて配信の最適化やユーザーとの接点強化を図る中、クーポンを中心としたメディアとしての販売収益が上がっていきました。ここで従来の販促とは異なるリテールメディアとしての価値に気づき、またユーザー体験を阻害しないリテールメディア運用の可能性が見えてきたので、遅ればせながら全社的に取り組みを強化している状況です。

スギ薬局アプリの特筆すべきポイントは、紹介いただいたとおり、圧倒的な月間アクティブユーザー(MAU)です。約1,400万件のアプリダウンロード数に対してMAUが約650万と、業界平均と比較しても高い割合です。クーポン利用率も高く、スギ薬局のロイヤルカスタマーにリーチできることも特徴であると思います。
グループ全体での統合・事業推進が始まったイオン
MarkeZine:続いて、イオンの状況もお聞かせください。イオンは国内でもいち早くリテールメディアの構築・運用を進め、先進的な取り組みをされている印象があります。
イオン・赤坂:ありがとうございます。ただ、それはグループ内の事業会社が個別に進めてきた施策になり、実はグループ全体でのリテールメディアの取り組みは2024年4月に始まったばかりです。
とは言え、約300社におよぶグループ事業会社間では、データやメディアのサイロ化に加え、ガバナンスやシステム環境の違いといったさまざまな壁が存在します。この1年は、そうした課題を乗り越えるため、北米・欧州の成功事例を参考にしつつ、個社毎リテールメディアの取り組みや商習慣を理解した上で、統合・標準化の基盤づくりを進めてきました。
そして現在、概ね主要事業会社との合意形成に至り、いよいよ本格的な事業展開フェーズに移行しつつあります。

リテールメディア市場、拡大のキーは「広告宣伝費」の獲得
MarkeZine:リテールメディア市場の拡大が進む一方で、実際に運用されている各社はどのような課題を抱えていますか?
スギ薬局・増田:現在、リテールメディアの売上の8割以上は販促費からで、広告宣伝費として予算をいただくケースは全体の2割に満たない状況です。

当社では、商品部(バイヤー)がメーカーの販促担当と商談し、その中でリテールメディア出稿の話が進んでいきます。この関係性を無視して、私たちマーケティングの部門が勝手にメーカーの広告宣伝部門へ接触してしまうと、社内外のハレーションを避けられません。そのため、バイヤーが築いてきたメーカーとの信頼関係を大切にしながら社内連携を強化。地道で泥臭い広告宣伝部門へのアプローチを進めているところです。
MarkeZine:長年築いてきたメーカーとの関係性があるからこその課題感と言えますね。イオンはいかがでしょう?
イオン・赤坂:新たな収益機会の創出においては、これまで十分にリーチできていなかった広告宣伝予算を活用することも重要なテーマの一つです。

リテールメディアがどれだけマーケティング活動に効果をもたらすかを基準に広告出稿を判断されるため、各社に分散しているメディアセットの統合集約と、顧客視点を軸とした共通基盤の構築、再現性のある実行体制の標準化に向けて取り組んでいます。
MarkeZine:なるほど、各社のリアルな課題感は、業界全体の課題とも言えそうです。
販促施策にも認知施策にも最適なリテールメディア
複数のリテール公式アプリに一斉に広告配信ができ、購買タイミングに届く × 購買データで効果検証が可能です。出稿効果がID-POS連携でレポーティングもできます(購買数・ROAS)。本記事で興味を持たれた方は、ぜひARUTANA公式サイトよりご相談ください。
業界を俯瞰した時の課題、まずは基準の整備から
MarkeZine:DearOneは、リテールメディアをビジネスとして成立させるためにはどのような障壁があると考えますか? 業界全体を俯瞰されている立場から、現状を教えてください。
川村:リテールメディアはまだ全体的な基準が確立されておらず、未完成で流動的な市場です。たとえば、テレビCMはどの局でも枠や料金がおおよそ標準化されていますが、リテールメディアは考え方や注力度合が各社で異なります。ID-POSデータやアプリが未整備のリテーラーもあり、企業ごとの差が大きいのが現状。全体的な足並みが揃いさえすれば、テレビCMのような市場規模へと成長する可能性は十分にあると考えています。

MarkeZine:メディア側の足並みが揃い切っていないことによる、広告主側への影響はありますか?
川村:広告主が複数のリテールメディアに出稿しようとすると、一社一社個別に商談を重ね、異なるセグメント設計や入稿フォーマットに対応する必要が出てきます。非常に多くの手間とコストが発生することは、想像に難くないですよね。
また、増田さんのお話にもあった通り、現状リテールメディアの窓口となるのは販促部門が多く、広告宣伝費の予算はまだあまりリテールメディアに流れてきていません。市場規模拡大を目指すには、販促費ではなく、新たに広告宣伝費から予算を獲得していくことが必須でしょう。
そのために必要なのが、ID-POSデータなどを活用した「誰に、何が、どのように売れたのか」という広告視点での効果検証です。そこを突破できれば、リテールメディアの収益ポテンシャルは格段に上がると考えています。
リテーラーとメーカー双方の課題を解決するプラットフォーム「ARUTANA」
MarkeZine:日本のリテールメディアは「メディアの足並みが揃っていない」「出稿の手間がかかる」といった課題感が浮かび上がりましたが、これらを解決するためにはどのような仕組みが必要でしょうか?
川村:バラバラな広告枠を1つに束ね、メディア側も広告主側も少ない工数で管理できる仕組みが必要となります。そうした課題感から開発したのが、国内初となるリテールメディア横断型の広告配信プラットフォーム「ARUTANA(アルタナ)」です。
「ARUTANA」とは
小売各社の公式アプリのディスプレイネットワークを横断し、広告配信を可能にするプラットフォーム。4,000万人を超えるMAUと、約48,000の対象店舗を抱えている(2025年7月時点)。

これにより、これまでバラバラだったリテールメディアを統合し、広告主は複数のリテールに対して一元的に広告を出稿することが可能に。各社の公式アプリのディスプレイネットワークを統合することで、価格設定を標準化し、広告主にとってのわかりやすさと妥当性も提供する。

MarkeZine:つまり、リテールメディアが抱えていた「(1社だと)リーチが弱い」という課題にも対応するわけですね。ほかにリテーラーにとっての「ARUTANA」の特長やメリットはありますか?
川村:主に3つあります。1つ目は、営業リソースを抑えながらチャンスを最大化できること。「ARUTANA」では、DearOneから広告主に営業をかけ、獲得した案件を各リテーラーへ仲介するフローとなっています。自社だけでは難しい予算獲得も可能となり、営業工数の削減にもつながります。

2つ目は、特定の1社への肩入れをしないからこそ、メーカーの広告予算を獲得しやすいこと。広告宣伝部門は特定のメディアのみで配信することへの抵抗感を示す場合がありますが、「ARUTANA」は複数社によるディスプレイネットワークであるため、このネックを解消できます。
3つ目は、精度の高いターゲティングと効果検証ができること。全国津々浦々のリテールデータを横断的に活用できるため、デモグラフィック情報をもとにしたターゲティング配信から、ID-POS連携による効果検証まで、広告宣伝部門が求める高い粒度でのソリューション提供が可能です。
今年の秋には、広告主待望のTVやコネクテッドTVと「ARUTANA」の広告接触状況の可視化や、docomoさんと協力して購入者のより詳細なペルソナ分析が可能になるなど、メーカーのマーケティング部門の方がなかなか得られなかった情報も得られるようになり、出稿のメリットがより高まっていきます。
MarkeZine:なるほど。リテーラーと広告主側の双方において利点があることがわかりました。
川村:リテーラーのみなさまの運用負荷を最小限に抑えることを目指し開発されたのが「ARUTANA」です。本来、公式アプリの目的は「購買促進」であって、収益を上げる「メディア」として作られたものではないはず。だからこそ、リテーラー目線での利便性を第一に追求し、無理にメディア収益化の考え方を押し付けることはしません。企業ごとのポリシーを大切に守りつつ、可能な範囲でリテールメディアとしての価値を最大化するお手伝いをしています。
販促施策にも認知施策にも最適なリテールメディア
複数のリテール公式アプリに一斉に広告配信ができ、購買タイミングに届く × 購買データで効果検証が可能です。出稿効果がID-POS連携でレポーティングもできます(購買数・ROAS)。本記事で興味を持たれた方は、ぜひARUTANA公式サイトよりご相談ください。
スギ薬局、イオンは「ARUTANA」をどう活用する?
MarkeZine:実際に導入しているスギ薬局とイオンは、「ARUTANA」をどのように活用していこうとしていますか?
スギ薬局・増田:スギ薬局がリテールメディアを推進する上で大切にしているのは、広告によって顧客体験を損ねないこと。「ARUTANA」はユーザーに配慮した自然な広告配置だったこともあり、現在テスト的に導入を進めている段階です。まずは自社内でのデータを整理し、一気通貫の顧客体験を提供できるようにすることが目標ですね。
とはいえ、スギ薬局単体では広告宣伝費の獲得の領域において限界があるため、他の流通事業者と横断で、リテールメディアにおける連携を図っていかなければならないと感じています。他社とバッティングせず、顧客体験を損ねないことを大前提に、選択肢の一つとして「ARUTANA」を通じた広告宣伝費による収益拡大を目指していきたいです。
イオン・赤坂:当社では、導入時のシミュレーションよりも多くの収益をARUTANAで獲得できています。その前提のもと、「ARUTANA」に期待することは大きく3つです。1つ目は、グループ横断で統一した顧客体験を提供できること。50以上のアプリを展開するイオングループにとって、広告フォーマットの統一は喫緊の課題でした。「ARUTANA」導入によって、広告主にとっても入稿しやすく、お客様にとっても統一感のある体験が提供できるようになることを期待します。
2つ目は、マーケティングの効率化。事業会社ごとに種類や粒度の異なっていたセグメントを「ARUTANA」で統一し、効果検証までのプロセスを迅速に、一貫したアウトプットで提供していきたいです。
3つ目は、1stパーティデータの高度な活用です。イオングループは年間約5兆円分のID-POSデータを保有しており、これを軸とした施策設計やメディア開発を進めています。従来、オンライン(EC)では広告接触から購買までをデジタル上で把握できていましたが、オフライン(店頭)購買とのつながりは十分に見えていませんでした。今後はオンラインとオフラインを一気通貫で捉えることで、より精緻な施策設計を可能にし、お客様のLTV向上につなげていきたいと考えています。
リテールメディアは購買行動を可視化できる「最後の砦」に
MarkeZine:最後にDearOneから、リテールメディア市場における「ARUTANA」の今後のビジョン をお聞かせください。
川村:広告は最終的に「買ったか、買わなかったか」に行き着くものだと考えています。テレビCMはもとより、デジタル広告でもCookie 制限によって「実際の広告効果」が見えにくくなってきた昨今、お客様の購買に最も近く、高い頻度で接触できるリテールメディアは購買行動を明確に可視化できる「最後の砦」となるのではないでしょうか。

アメリカでのリテールメディアはEコマースが主流ですが、店舗での購買が強い日本では「リアル×DX」でのリテールメディア開発が進んでいくでしょう。その中でDearOneは、アプリ、データ活用、サイネージのどの側面からでもお客様を支援できるよう、間口を広く用意しております。特に、リテール各社様が蓄積しているID-POSの連携をしていただくことで、広告主・リテール・生活者それぞれに多くの価値が提供できる可能性を秘めています。
「ARUTANA」というプラットフォームを通じて、新たなエコシステムを構築し、“三方よし”の中心に「ARUTANA」がいられるよう、さらなる成長を図っていきます。
販促施策にも認知施策にも最適なリテールメディア
複数のリテール公式アプリに一斉に広告配信ができ、購買タイミングに届く × 購買データで効果検証が可能です。出稿効果がID-POS連携でレポーティングもできます(購買数・ROAS)。本記事で興味を持たれた方は、ぜひARUTANA公式サイトよりご相談ください。