手口が増え続けている広告業界の「学び」の難しさ
藤平:地図のない道を歩き、汎用性の高い筋肉をつけてから、知識として体系化・拡張していく――広告業界では、多くの人がそうして育ってきたのかもしれません。
とはいえ、クリエイティブの手口が広告に限らなくなってきている中、博報堂では最近「知識」関連の研修が増えている印象です。「アプリを実装してみよう」「AIを使ってみよう」「データハンドリングをしてみよう」といった実務的なスキルの研修です。
これには広告会社の仕事が「広告外」に広がり、必要とされるスキル(種目)が多様化しているという背景があるわけですが、「机上の知識」の習得だけでなく、その知恵を駆動する「筋肉」もしっかり育てなければいけない、とは思ったりします。知識のほうが、教えやすい・再現しやすいのは、たしかなんですけど。

一橋大学卒業後、2013年博報堂入社。クリエイティブブティック・SIX、官民共創クリエイティブスタジオ・Vegaにも所属。 「愛される/尊敬されるブランドを社会に増やす」という目標を持ち、パーパスと生活者発想の両視点から設計したコンセプトを、広告/コミュニケーションに留まらず、サービス/プロダクト、コンテンツやインナー活性化プログラムなど、さまざまな手法で体験にする。 これまでに「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 総務大臣賞/グランプリ」などを受賞。ad:tech tokyoなど登壇の実績も多く、自著に『クリエイティブなマーケティング』(現代書林)がある。 好きなものは、串揚げとジンとクッキー缶。
ここで質問なのですが、手口ではない、先の話で筋肉と例えていた部分は教えられるものだと思われますか?
米村:僕は「教える」ことはできないと思います。ただ、クリエイティブの力や面白さやを「伝える」ことはできるのではないでしょうか。つまり、そんな体験を自分もしてみたい、雲の上の青空を見てみたい……そんな気持ちにさせることはできる。その先は、各々自分で越えていくしかないように思います。

博報堂を経て、Wieden+Kennedy Tokyoに入社。手掛けた広告は「サッポロビール/北海道生搾りシリーズ」「NIKE/Bright Side」「KUMON/教室の奇跡」など多数。2009年にWieden+Kennedy Tokyoから独立し、小霜和也氏とノープロブレムを創立。2014年、ECDとして博報堂に復職。2020~2023年まで博報堂フェローを務める。現在はBright Side LLCをベースにより広範囲に活動中。座右の銘は「迷ったら笑えるほうへ(by テリー伊藤さん)」。
僕らがやっているビジネスクリエイティブジムは、まさにクリエイティブ力を鍛える場所です。クリエイティブストラテジーの基礎を伝え、エグゼキューションの力を鍛えるという2段階でカリキュラムを組んでいます。
クリエイティブジムは、元々「広告学校」でしたが、去年から「広告」という前提を取っ払い、ビジネスにおけるクリエイティブ力を鍛える場としました。クリエイティブ力は、広告に限らず、営業でも接客でもあらゆるものに通じますからね。
藤平:いまの時代に「広告」「学校」から「クリエイティブ」「ジム」にシフトしたというのは納得です。視点を変えれば、広告会社が培ってきた広告クリエイティブの思考法には、汎用性や拡張性があるという風にも言えると思います。そして、その「魅力を伝える」ことが教える側にできることなのだと。
マニュアル化できるものはAIで代替できる、人間に残されるのは?
田中:手口はマニュアル化できますし、AIを使えば誰でもある程度キャッチアップできるようになっています。要は、一定までは代替されやすいスキルですよね。
僕は、その手口を使いこなすためにも、結局は「スタンス」が大事なんじゃないかと思います。意外とこの部分を伝えることが、これまで置き去りにされてきたんじゃないでしょうか。

ピュブリシスグループのGroup Creative Directorを長年務め、消費財や化粧品をはじめ、酒、煙草、自動車、製薬、アプリなど、幅広い業界で戦略構築からコミット。クライアント・ファーストを掲げ、CM/デジタル/SNS/PRを駆使したプロジェクトを統括。メインクライアントの日本マクドナルドとは、12年間、苦楽を共に並走。カンヌライオンズをはじめ国内外で受賞多数。ラクスルグループのGCDとノバセルのチーフブランドオフィサーを兼務した後、8月に独立。様々な事業会社の社内CD代行業を営みながら「Co-Creation」をテーマとした共創事業を立ち上げる。
藤平:スタンスというのは、そもそもクリエイティブに向き合う態度みたいなイメージですか?
田中:そうです。言ってしまえば、精神論なんですが。たとえば、「この商品は人々にもっと愛されていいはずだ」「クライアントの困難を絶対に救うんだ」「関係者全員、事情ごと抱きしめるんだ」と、そのプロジェクトにおける自分のスタンスを最初に決めるんです、企画をする前に。「信じる」「救う」「愛する」なんて、活字にするとちょっと重たいですが……。若手に踏み込んだ指導をしづらい時代だからこそ、勇気をもって伝えるようにしています。ここにしっかり向き合うと、組織の底上げが進むように感じています。