サイバーエージェントの決算報告で見えた、広告事業の課題と限界
CAの2025年9月期第3四半期決算は、一見すると増収増益で好調に見える。グループ全体では、売上高が前年同期比5.8%増の6,319億円、営業利益が同40.1%増の487億円と大幅な増益を達成した。長年の投資の結果、軌道に“少し”乗りはじめたメディア事業(ABEMA)と、新規タイトルが記録的ヒットとなったゲーム事業が、この力強い成長を牽引している。

しかし、その裏で、グループの成長を支えてきた「インターネット広告事業」には陰りが見える。2025年Q3の売上高は前年同期比0.4%増の1,113億円に留まったが、営業利益は同35.6%減の36億円と大幅に減少。代表取締役の藤田晋氏は決算説明で、「多額の取引をいただいていた顧客1社が離脱した」と冷静に説明したが、その1件が事業全体にそれほど大きなインパクトを与えることについて、注視しておこう。
CAのアドテク(広告)事業が抱える本質的な課題は「クライアント集中のリスク」である。公開されているクライアント事例には、Netflix、味の素、サンリオ、NTTドコモ、SBI証券、セゾン自動車火災保険、関西電力、再春館製薬所など多様な業界の大手企業が並ぶ。その幅広さは、CAが日本の主要産業のDX需要を的確に捉えてきたことを示している。
このように多数のクライアントを持ちながらも、CAは利益の大部分を実は一部の超大型アカウントに依存していた。今回、その脆弱性が浮き彫りになったと言える。筆者は、離脱した企業は、ゲーム関連の事業会社のようなデータドリブンな企業か、グローバルプラットフォーマーなどテック系の広告主ではないかと推測する。

特に、もともとデータドリブンな素地のあるゲーム関連のクライアントの場合、コスト削減やデータへの完全アクセス、迅速な意思決定を目的とした「インハウス化」に移行することが十分に考えられる。テック系広告主ではAIを活用した中央集権的なインハウスチームが構築され、プログラマティック広告を自社運用に切り替える動きが自然に発生している。
さらに、グローバル広告代理店ネットワークのWPPやOmnicom、Publicisなどは、このような「契約の見直し(グローバル・レビュー:アカウント変更・取り消し)」のリスクに備え、世界規模の拠点を活用した防御網を持つ。だが、日本単独のCA規模では、この潮流に抗うのは難しいだろう。
アドテクという「代理業」単体では、いくらAIを組み込んだ技術やテクノロジー、サービスを付与しても、AmazonやGoogleなどが類似で上回るテクノロジーを開放すれば、広告主は自社運用への傾き「インハウス化」が加速する。これは避けられない流れだ。これは国内に閉じた傾向ではなく、グローバルで発生している波が日本にさらに押し寄せてくる。