記憶を創るためのブランディング広告
では、この「ブランドに対する記憶と連想」を築き、選ばれる確率を高めるために活用すべき手段とは何でしょうか。それがブランディング投資としての広告宣伝活動です。短期的な売上を創出する販売促進活動とは異なり、ブランディング広告には、消費者の記憶に働きかける役割があります。
ブランディング広告の役割は、大きく以下の2つに整理できます。
ブランディング広告の役割
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ブランドを「想起できる人」を増やす/維持すること
ブランドの存在を届け、ロゴや名称などの特徴を記憶してもらう。忘却を防ぎ、顧客の離反を予防する。 -
ブランド連想を広げ、便益評価を高めること
ブランドのイメージや利用シーンを拡張し、用途の多様化につながる価値を提案する。
言い換えれば、ブランディング広告とは、一人でも多くの消費者の記憶の中にブランドを認識してもらい、記憶の中の占有率を高める活動です。商品・サービスの独自性を活かし、様々な「意味や価値」を紐づけていくことが目的です。
では、具体的にどのように「意味や価値」を結びつけることが、消費者の選択を促す上で効果的なのでしょうか。
ブランド成長の法則
ブランド連想を高める鍵となるのが、「カテゴリー・エントリー・ポイント(Category Entry Points:CEPs)」という考え方です。
CEPsとは、消費者がブランドを思い出す前に、そのカテゴリーを必要とするきっかけとなる状況や場面を指す概念です。これは、消費者の生活から自然に生じるもので、以下のような例があります。
CEPsが生じる場面の例
- When(いつ):「朝の目覚め」「休憩中」「仕事の合間」
- Where(どこで):「自宅」「外出先」「職場」
- with Whom(誰と):「一人で」「友人たちと」「職場の同僚と」
消費者は、特定のブランドから購買を考え始めるのではなく、生活の中で何らかのニーズ(問題認識)が発生した際に、無意識に情報探索を行います。その段階で、CEPsに関連する記憶を探り、結びついているブランドを脳が直感的かつ経験則的判断で選択肢として想起するのです。
このメカニズムを踏まえると、ブランディング広告が目指すべき方向性がより明確になります。記憶の連想が多いほど、購買状況においてブランドが想起される確率が高まる(Sharp, 2017)ため、自社ブランドがどのようなCEPsと結びつけるかを戦略的に定め、「この状況=このブランド」という連想を消費者の記憶の中に定着・拡大していくことが重要です。
つまり、ブランディング投資とは、多様なCEPsと自社ブランドの便益を結びつけることで、様々な購買シーンで直感的に選ばれるための「記憶資産」の基盤を創るプロセスであり、将来のビジネス成長に向けた中長期的な投資活動なのです。
次回は、今回解説した「記憶資産」が、実際に購買行動とどのように結びつくのかを具体的なデータを用いて紹介し、ブランディング投資の考え方をさらに深堀りしていきます。
