チャットマーケティングで顧客理解を深める
━━チャットマーケティングは「会話」を通じてユーザーを理解し、育成まで対応できるマーケティング手法であると、DMMチャットブーストCVを運営するAlgoageでは提唱されています。まずはその定義について教えてください。
成田:チャットマーケティングとは、一言でいえば「チャットを介した顧客理解」を軸としたマーケティング手法です。具体的には、ユーザーが抱える課題や、サービスへのインサイト(本音)を会話で理解し、その情報に基づいて最適な施策を展開する一連の流れを指します。
成田:従来型のマーケティングでは、ユーザーの行動データやクリックログを分析し、「何が起こったか」を把握するのが中心でした。しかし、チャットマーケティングでは、ユーザーとの一対一の対話を通じて「なぜそれが起こったか」という深いレベルでの顧客理解まで対応できます。
私たちは、このチャットマーケティングのプロセスを、ユーザーの理解から獲得、そして顧客の育成(ナーチャリング)までを一気通貫でカバーするものだと捉えています。特に、未顧客となっているユーザーの潜在的なニーズや、ランディングページ(LP)やフォームを離脱した理由などの「理解」まで踏み込める点が最大の魅力です。
広告のネガティブイメージを払拭し、成果も向上させる
━━行動データに依存する従来のマーケティング手法は、今、どのような課題に直面しているのでしょうか。またその中で、なぜチャットマーケティングが必要になってきているのですか。
成田:現在の大きな課題の一つは、広告というものがネガティブなものとして受けとめられる時代になっていることです。ユーザーは自分の行動がトラッキングされ、それに基づいて広告が表示されることに疲弊し、広告効果も頭打ちになりつつあります。
また、従来のWebマーケティングの効果改善を支えてきたA/Bテストにも限界が見えています。A/Bテストで「A案の方が良かった」という結果は出ても、「なぜA案が良かったのか」というユーザーインサイトまでは理解できません。
多くのマーケターは、クリック率やコンバージョン率といった行動の結果にばかりフォーカスし、A/Bテストの結果を信じて改善し続けます。しかし、その裏にあるユーザーの感情や思考を理解しなければ、本質的なマーケティング課題の解決にはつながりません。
チャットマーケティングは、ユーザーが広告やLPを訪問した際に、診断コンテンツなどを通じて能動的に対話してもらう機会を提供します。これにより、広告という一方的な発信を、ユーザーにとってポジティブなコミュニケーションに変えることができるのです。
さらに、対話を通して「このユーザーはどの情報に興味を持ったのか」「なぜ離脱しようとしたのか」という理由を把握できます。これにより、広告効果だけでなく、事業そのものの課題解決にもつながる示唆を得られるようになります。
従来のマーケティングの課題は「なぜ」を深掘りできない点に集約されます。チャットマーケティングは、その「なぜ」を言語化された回答データとして可視化し、広告をよりポジティブなものにしながら、最終的に成果を高めていくために必要不可欠な手法なのです。
広告効果向上と商品・サービスの改善を両立した事例も
━━チャットマーケティングを導入することで、具体的にどのような成果がもたらされているのか、事例を交えて教えていただけますか。
成田:具体的な事例として、自由診療を取り扱うクリニック様での取り組みをご紹介します。このクリニック様では、Webサイトに来訪し、LPやフォームで離脱してしまったユーザーをターゲットにチャットマーケティングを導入しました。

成田:LPやフォームを離脱したユーザーに対して、チャットを通じて「なぜ予約に進まなかったのか」「サービスに不安がある点はどこか」といった、行動データからは見えない質問を投げかけました。これにより、ユーザーが持つ不安や疑問、検討段階を詳細に把握しました。
その結果、「予約枠が自分の予定と合わない」「サービス利用による効果の具体的なイメージが持てない」「自宅から遠い」といった、サービスの根幹に関わる重要な示唆を得ることができました。これらは、単に広告のクリエイティブを変えるだけでは解決できない、プロダクトやWebサイト設計の課題でした。
このクリニック様では出てきた示唆に基づき、予約のキャパシティの見直しや、LP内での具体的な利用イメージを補完するコンテンツの追加など、サービスの改善にまで踏み込んだ対応を進めました。
チャットマーケティングがもたらした成果は、単なるチャット内でのコンバージョン率向上に留まりません。事業の改善に生かせる示唆を得たことで、Webサイト全体のUXが向上し、結果として広告効果だけでなく、事業成果全体に大きく貢献することができました。
このように、チャットマーケティングは、従来のコンバージョン地点の直前で起こる「もったいない離脱」を防ぐだけでなく、その離脱の原因を突き止め、事業全体にフィードバックできる点が、マーケターにとって大きな価値となります。
事業フェーズに合わせた設計が重要
━━チャットマーケティングを企業が取り入れていく上で、成功のために重要となるポイントは何でしょうか。
成田:まず前提として、チャットマーケティングをインハウス(内製)ですべて設計・運用していくのは、非常に難しいです。従来のWeb広告運用とは必要なスキルセットが全く異なるためです。
チャットマーケティングを成功させるには、広告の媒体を使いこなすことに注力するのではなく、「Who(誰に)」「What(何を伝えるべきか)」という、より本質的なユーザーインサイトを見つける努力が必要不可欠です。
そのためには、まず自社の事業のフェーズを正確に理解し、ボトルネックがどこにあるのかを明確にすることが重要です。新規顧客獲得がボトルネックなのか、それとも既存顧客の育成や離脱防止が課題なのかによって、チャットの設計は大きく変わります。
たとえば、事業立ち上げ初期であれば「潜在顧客のニーズを深く理解するための対話」に重点を置きますし、成熟期であれば「既存顧客の満足度向上や、アップセル・クロスセルに向けた対話」が中心になります。
チャットマーケティングは単なるツール導入で終わるのではなく、マーケティング戦略全体を再定義する思想が必要です。自社の事業フェーズ、解決したい課題に合わせて、正しい対象に対して正しいチャットを設計することが成功の鍵となります。Algoageでは、その設計部分から伴走しています。
チャットマーケティングの実践に向け、明日からできること
━━チャットマーケティングに関心を持ったマーケターが、まず明日から意識すべきこと、取り組むべき具体的なマインドセットについて教えてください。
成田:最も重要なのは、行動データだけでなく、顧客の回答データをもとにマーケティングを改善するというマインドセットを持つことです。現代のマーケターはクリック数や滞在時間といった行動データに慣れすぎて、「顧客の回答」という最も強力な情報源を軽視してしまうことがあります。

成田:まずは、「なぜこのユーザーはページを閉じたのだろう」「なぜこの項目で入力をやめたのだろう」という疑問を言語化し、それを対話によって解決できるという可能性に目を向けることから始めてほしいです。
従来のマーケティングのデファクトスタンダードは、クリックや行動データに頼って前に進むことでした。私たちは、この世界に対して「それだけではない」という一石を投じたいと思っています。
そのために、私たち自身が、チャットマーケティングがもたらす価値や事例について、世の中に対して発信し続けていきます。
チャットマーケティングをKPIとセットで広めていく
━━AIの進化や新しいプラットフォームの登場により、チャットマーケティングは今後どのような進化を遂げると見ていますか。
成田:AIがどれだけ進化し浸透しても、人間が一定の選択肢を用意して誘導するという活動は不可欠だと考えています。なぜなら、多くの人は自分の思いを明確に言語化できないからです。
たとえば、Webで検索する際、ユーザーは「大阪 ホテル」のように、自分の曖昧な要望を一つの検索バーに無理やり詰め込んでいます。しかし、本心では「予算は抑えたいけど、夜景の見える清潔なホテルがいい」といった複合的な要望があるはずです。
チャットマーケティングは、その複合的な要望を対話形式で引き出し、最適解へと導く役割を担います。AIによって対話の精度を高めることはできますが、問いの設計は人間のマーケターの仕事として残るでしょう。
━━最後に、チャットマーケティングの今後の展望について教えてください。
成田:ありがたいことに、チャットマーケティングの思想そのものについては、多くのマーケターの方々から共感をいただいています。一方でそれを現場に浸透させるためのKPI(重要業績評価指標)を定義し、チャットマーケティングの概念とともに広めていきたいです。
今後も書籍の刊行や今回のような情報発信を通じて、この新しいマーケティングの価値を、定量的な指標とともに確立していきたいです。
現状の広告施策や成果に課題を感じている方におすすめ!
チャットマーケティングについてより詳しく知りたい方は、チャットマーケティングの教科書をご活用ください。

