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【ニッセイ基礎研究所 解説】「共創」視点で再定義する「サステナブル・マーケティング」

数字で読み解く「ブランドの透明性の力」/社会貢献活動を報告・共有する時に求められるポイントとは

メルカリのホワイトペーパー公開から学べること

 ブランドの透明性に関して、もう1つの側面にも注目したい。

 別の研究によれば、消費者は企業の「完璧な成果」よりも、「誠実な途中経過」に信頼を寄せる傾向があるとされる。課題や失敗を隠さずに開示できる企業ほど、「誠実で一貫している」と評価されやすい

 たとえば、2025年に社会的な関心を集めたニュースで、ファーストフードチェーンの景品や新型ゲーム機のマーケットプレイスなどでの高額転売問題があった。この事案を受けて、マーケットプレイス大手のメルカリは、この10月に「マーケットプレイスの基本原則」ホワイトペーパーを公表。意思決定の背景や議論の過程、外部有識者との意見の相違までを明示し、「なぜ」「どのように決定したのか」を社会と共有した。

メルカリ、「マーケットプレイスの基本原則」や新たに定めた対応方針に関するホワイトペーパーを公開
メルカリ、「マーケットプレイスの基本原則」や新たに定めた対応方針に関するホワイトペーパーを公開

 さらに、同社は8月に「透明性レポート」を発行し、不正利用者の排除や被害者救済策の進捗を開示している。そこでは、成果だけでなく課題や対応状況を具体的な数値とともに、捜査機関からの開示要請件数や令状対応件数といった、一般には伏せられがちなリスク情報までを公表している。

 この一連の開示姿勢は、「消費者と課題を共有しながら改善を重ねる」というブランド透明性を意識した消費者との信頼構築アプローチにも見える。課題を含めた途上の努力を定常的に見せることは、社会課題を意識したマーケティング・コミュニケーションの本質とも言えるが、このケースは誠実さを通じて信頼という社会的資本を積み上げ、ブランド価値を持続的に維持していこうとする実践的な事例とも言えるのではないだろうか。

語るブランドから、行動し続けるブランドへ

 今の消費者は、企業が「何を語るか」ではなく、「どう行動し続けるか」を見ているとも言われる。

 特に若年層は、企業の社会貢献活動を「良い話」として一時的に評価しても、その後の継続や変化が見えなければ、ブランディングの観点からは「社会貢献と収益の両輪」にはつながりにくい。むしろ、過度に「良いこと」を強調する企業ほど、押しつけがましさや不自然さを感じさせるリスクすらある。

 企業の社会貢献は、信頼を軸にブランドの経済的持続力を高める戦略行動であるとも言えるのだ。

 その成果をブランド戦略に活かすためには、成功例の報告だけでなく、課題や未達も含めた「途上の努力」を開示することが欠かせない。言い換えれば、「完璧さ」よりも「(裏切らない)一貫性」、「成果」よりも「失敗からの学び」が、ブランドへの信頼を築いていくことになる。

 誠実な情報開示やブランド体験を通じて、消費者が「問題もあるが、一緒に成長していくブランド」だと実感できれば、その関係は共感から共創へと深化していく

 誠実さを一時的な印象ではなく、行動の一貫性として示すこと。それこそが、企業が消費者との信頼関係を築いていくための、これからのブランディングの一つの要諦と言えるのではないだろうか。

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この記事の著者

小口 裕(オグチ ユタカ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 准主任研究員

多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)。消費者行動の専門家として、エシカル消費、サステナブル・マーケティング、地方創生を中心に研究・政策提言を行う。過去、20年以上にわたり、自動車、食品・飲料、デジタルコンテンツ、自治体などの多岐にわたる分野の消費者調査や研究に従事。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/12 08:00 https://markezine.jp/article/detail/50070

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