GTM戦略の誤解「市場への届け方」の全体設計
松本:丸井さんの著書『GTM(Go-To-Market)戦略の教科書 マーケティング・営業・CSを成長エンジンとして完全仕組み化する』を拝読しました。読むまで、GTMとはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)の後に続くフェーズぐらいに捉えていました。しかし本書を読んで、かなり広範囲な戦略と戦術の話だと気づき、認識を大きく改めました。改めて、GTMとは何なのか教えてください。
丸井:「GTM」という言葉の定義や歴史には様々な解釈があると思いますが、『GTM戦略の教科書』では、セールス・マーケティング・カスタマーサクセス(CS)といったレベニュー組織が一体となり、共通のターゲット顧客を見定めて統一されたメッセージを発信し、整合性の取れたオペレーションを設計・実行するプロセスに焦点を置いています。
株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にて営業およびマーケティング分野の戦略コンサルタントとして、実現性の高い戦術設計に重点を置いたフレームワークを活用して、多くの顧客企業のDXを成功に導く。2021年ゼロワングロース株式会社設立、代表取締役に就任。著書に『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書』『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書』『GTM(Go-To-Market)戦略の教科書』(すべて翔泳社)などがある。
丸井:海外のSaaS業界で特に顕著ですが、成長一辺倒の風潮から生産性向上やLTV(顧客生涯価値)の最大化へ、投資家や経営者の思考が変化しています。こうした背景もあり、生産性が高い統合的なオペレーションモデルを構築する為の設計図として、GTM戦略の再構築への期待が高まっています。多くの会社でGTMを専門的に推進する「GTMディレクター」といった職位も設けられています。
組織は「定数」ではなく「変数」。The Modelありきの構造的課題
松本:「The Model」のような分業体制を導入しつつ、さらにGTM戦略も推進しなければならないとなると、現場への負荷が高そうな印象を抱きました。いたずらに登場人物や手法が増えて複雑になっているだけだという見方はありませんか?
丸井:『THE MODEL』著者の福田康隆さんも、分業体制を敷きましょうといったことは一切語っておらず、そもそも、レベニュー組織を固定のものと捉えるのは誤りだと思います。
たとえば、あるITサービスの販売現場があったとします。想定される顧客像は、CTOまたは現場のエンジニアを想定します。提供するシステムは一緒でも、CTOと現場のエンジニアでは、何に価値を感じるかが全く異なります。つまり、同じシステム販売でもターゲットにする顧客が変わると解決すべき課題が変わります。
課題が変わると、当然バリュープロポジションも異なりますし、価格設定もエグゼクティブに販売するのと、現場のエンジニア向けに販売するのとでは違うはずです。現場向けであれば、大きな投資判断を伴うプライシングモデルより、クイックに効果を検証できるフリーミアムモデルのほうが受け入れられるかもしれません。
このように課題やプライシングモデルが異なれば、対応するチャネルをはじめ、商談の機会に至るまでのプロセス、そしてKPIも全く異なるでしょう。ということは、施策を管理するためのテクノロジーやデータも違ってきます。
つまり、ターゲットとする顧客像に合わせて、提供する価値やプロセス、さらにシステムまでも適切に変化させることが求められる中で、組織やプロセスは決まっていて、そこに顧客の課題を当てはめていくのは難易度が高いと思うのです。
松本:なるほど! とても大きな勘違いをしていました。組織を定数にしていました。顧客にどう届けるかで、施策が変わるし組織も変わる。丸井さんの指摘は、組織の形やあり方は変数ということですね。
丸井:ええ、まさにそこです。MOpsやRevOpsを作ることよりも、まずGTMの根本からしっかり見直していかないと改善しない。日本のBtoB企業の多くが抱える構造的な課題は、そこにあると思っています。
松本:BtoB SaaSベンチャーの大半が「The Model」を採り入れており、「えっ!?」という声が各地から聞こえてきそうです。
