日本のレベニュー組織が"アジャイルすぎる"ことの落とし穴
松本:海外のレベニュー組織では、形やあり方を柔軟に変えているのですか?
丸井:意外かもしれませんが、欧米のレベニュー組織は、ウォーターフォール的な進め方でオペレーションを設計しているように見えます。まず“理想とする顧客像”を明確に定義した上で、「どのような価値を届け、各部門がどう連携して共通目標を追うか」という合意形成をします。そして、一度決めた方針を頻繁に変更しません。だからこそ、標準的なオペレーションモデルを構築できるのだと思います。
一方日本のレベニュー組織は、“理想とする顧客像”の定義から「まずは当たってみよう」とアジャイルに進める傾向があります。この柔軟さはメリットである反面、前提となる顧客が頻繁に変わるため、オペレーションの標準化を阻害します。結果としてテクノロジーの活用やデータマネジメントが複雑化し、いつまでも属人化から抜け出せない原因になっています。
松本:その問題に心当たりがあります。ある特定の市場でPMFを達成しているサービスが、別の市場を開拓するために異なる顧客像を想定して挑戦したのですが、ただ、レベニュー組織のまま挑んだのです。
本来であれば、レベニュー組織をGTM担当とPMF担当に分けるか、組織全体をPMFフェーズ当時の形態に戻すか、どちらかを採択すべきでした。結果として人員が余り、特定の役職者に作業が集中し、2度目のPMFには至りませんでした。アジャイルにすべき部分と、そうでない部分を厳格に分けるべきだという気付きを得ました。
丸井:ベンチャー企業やスタートアップだけでなく、大企業にも当てはまる話ですね。2025年、ロンドンで開催されたカンファレンスで、NASDAQのGTMディレクターの方とお話しする機会がありました。NASDAQのような大企業ですら、ITシステムやコンサルティングサービスの新規展開にあたっては厳格な検証プロセスと明確なクリア基準を持っていると知りました。
NASDAQも、かつてはプロセスが不明確で「多分、この商品はこういった顧客層に数百件商談が作れるはずだ」とノリで決めて、半年後にはパイプラインが枯渇するといった事態を繰り返していたそうですが、現在は目標達成を前倒しで実現することもあるようです。
「GTMモーション」はレベニュー組織の「動き方の型」
松本:著書ではインバウンドやアウトバウンドなど、GTMモーションについて解説されていました。組織の形やあり方が変数なら、当然ながらGTMモーションも変数だと解釈しています。ただし、日本のBtoB SaaS企業の多くが、インバウンドかアウトバウンドかを固定し、「The Model」的な構造を組織にカチッと当てはめようとしているように見えます。改めて、GTMモーションとは何か、そしてどのような観点で選択・変更すべきかを教えてください。
丸井:「GTMモーション」とは、レベニュー組織の「動き方の型」です。インバウンド主導型、アウトバウンド主導型、プロダクト主導型、コミュニティ主導型などがあり、それらの組み合わせもあります。
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丸井:先ほどの、あるエンジニア向けのITサービスで、仮に「エグゼクティブクラスに買っていただく」と決めたとしましょう。顧客候補の人数を調べたら、50人しかいないとわかりました。しかしマーケティングチームが、コンテンツマーケティングやUGCの創出に力を入れたり、インサイドセールスにMQLを供給したり、MAを使ったりするなどインバウンド主導型を採り入れているとしたら、手法とターゲットがマッチしていないことは明らかですよね。
そもそもGTMモーションの決定は非常に難しい問題です。1つのGTMモーションを追加することは、担当者を専任させるほどのボリュームがあるため、容易に中止することはできません。そのため、「ここまでやってダメだったらやめる」という撤退基準を事前に設定しておくことが重要です。
そこで効率的なアプローチとして注目を集めているのは、小さく試しながら成功したGTMモーションを拡大させる方法です。GTMモーションの探索を担う「ラボ(実験)的な動き」をする人と、確立されたモーションを拡大させる「ファクトリー(工場)的な動き」をする人で役割分担を明確にするのです。
ラボとファクトリーは、研究室で開発したものを工場で生産するという、もの作りの世界で当たり前に行われている活動を、GTMの世界にも適用しようという考え方です。
