最重要な「ICP(理想の顧客像)」の選定プロセス
松本:先ほど、丸井さんから「理想とする顧客像」という言葉がありました。著書では、ICP(Ideal Customer Profile=理想とする顧客像)を精緻化するために、抱える課題の本質を徹底的に理解することの重要性を解説しておられました。BtoCにおける顧客理解に近いと感じましたが、BtoBではリード単位、アカウント単位、購買グループ単位など、様々な視点があります。適切なICPをどのように決定していくべきでしょうか。
丸井:ICPの選定は、GTM戦略において最も重要な作業の1つです。確実な正解があるわけではありませんが、基本的なプロセスをお伝えします。
まず、自社にとって重要なセグメンテーション軸を整理します。BtoBの場合、企業のプレスリリース、採用情報、IR、報道など、公開されたデータが豊富に存在します。これらの情報を活用し、企業属性、テクノグラフィック、その会社の期待収益などのセグメンテーションからICPを絞り込みます。
特に私たちがお薦めしているのは、ICPの元となるセグメンテーション軸を7〜8つ程度ピックアップして、想定される「課題」を徹底的に分析するアプローチです。
顧客がとても大きな課題を抱えていて、解決しないと将来大きな問題になるとしましょう。そうなると、解決に導く商品・サービスの価値はとても高まります。ただし、課題を抱えていても支払い能力がない、市場規模が小さい、成長ポテンシャルがないといった場合はビジネスになりにくい。
課題を第一義の評価としつつ、成長性やマーケット規模などをスコアリングして、3つ程度にICPを絞り込みます。最後に、GTMモーションとレベニューのプロセスを設計し、小さく検証しながら前進するのが基本的なアプローチです。
ICPの選定はPMFとGTMフェーズでどう変わる?
松本:確認したいのですが、PMFとはProduct・Market・Fitですから、自社のプロダクトがマーケットの課題をこのように解決するという検証は既になされている、という理解です。だとすると、ICPもPMFの段階で決まっているのではないでしょうか? PMFを経た後の「GTMフェーズ」において、改めてICPを選定することには、どのような意味や役割があるのでしょうか?
丸井:GTMフェーズでは、PMFした商品やサービスをより販売スケールを拡大させる必要があるため、PMF時よりもターゲットが広がります。PMFが少数のターゲットに対するプロダクトフィットの検証であるならば、GTMは市場の大多数を狙えるセグメントや、GTMモーションを検証するフェーズと言えます。
松本:エンタープライズ営業の方々は顧客情報を深く収集し、組織構造や人事異動まで把握しています。丸井さんの話を聞いて、ICPの概念に近いと感じました。日本のエンプラ営業担当者は、昔からこのような深い顧客理解を得意としていたのではないでしょうか。
丸井:特にハイパフォーマーと呼ばれる方々は、まさに得意とされていますよね。しかし、それが個人の能力やナレッジに依存しており、会社の仕組みとして共有・活用されていない点は問題だと思うのです。
とはいえ現状では、「自分の売上目標を達成すれば十分なのに、なぜ手の内を明かす必要があるのか?」と営業担当者が考えても無理はありません。なぜなら、情報共有やフィードバックに対するモチベーション設計やインセンティブの仕組みが欠如しているからです。
たとえばBtoBビジネスでは、購買グループが10人以上の単位で存在することも珍しくありません。それにも関わらず、CRMに登録されている顧客情報が1人だけ、あるいは0人というケースが散見されます。ところが、ちゃんと登録してほしいと思っているのはMOpsのメンバーやCRMの管理者で、セールスではありません。営業担当者からすれば「なぜ面倒な入力作業を私がしなければならないのか?」と考えて当然です。
しかし本来、商談に関わったすべての関係者を登録してこそ、レベニュー組織で収集するあらゆるデータ(例:Web行動やミーティングの会話など)が集約され、商談のプロセスや決め手をデータで解析できるようになります。
特にマーケティング施策は「人」に対して行うものです。誰が商談に関与したかが明確になり、データとして紐付くことで、初めて「どの施策が売上に寄与したか」という収益効果が可視化されます。このデータ連携こそが、レベニュー組織が一体となるために不可欠な要素なのです。
