G-SHOCKが挑んだ、若年層の態度変容
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、今回のプロジェクトが立ち上がった背景を教えてください。
中村(CASIO):G-SHOCKブランドはおかげさまで非常に高い知名度を持つ一方で、「知ってはいるが自分には関係ない」と考える「認知非購買層」をどう動かすかが課題となっていました。特に若年層は「G-SHOCK」という名前を知っていても、耐衝撃性や防水性といったG-SHOCKの代表的な特長でさえあまり認知していません。
これらの課題を踏まえて掲げた2つの目標が、「態度変容を生む深い認知」と「若年層への認知」の獲得です。今回はまず、過去の経験からも「態度変容」の確かな手ごたえを感じていたYouTubeを舞台に、若年層に支持されるクリエイターとの共創企画を立ち上げようと考えました。
MZ:数あるチャンネルのなかから今回、「釣りよかでしょう。(以下、「釣りよか」)」へオファーされたのはなぜでしょうか。
中村(CASIO):個人的にも長く視聴してきたクリエイターであり、彼らのコンテンツはほぼすべて拝見してきました。継続的に見てきたからこそ、コンテンツの文脈やファンダムの熱量を把握していました。そのうえで、G-SHOCKの強みが自然に活きる世界観だと考えました。「釣り」は耐衝撃性や防水性といったG-SHOCKの特長が最も説得力を持つ場面の一つだと感じています。
なかでも今回は、タイドグラフ(潮汐情報)など、釣り人に実用的な機能を備える「G-LIDEシリーズ」を選定しました。元々はサーファー向けに開発された機種ですが、釣りという文脈にも高い親和性があると考えたためです。熱量の高いファンダムに対し、機能価値をより具体的に伝えられると判断しました。
広告嫌いの時代に刺さる“応援型”タイアップ
MZ:今回のプロジェクトは具体的にどのような施策を実施されたのでしょうか。
竹縄(UUUM):今回はCASIO様からUUUM所属クリエイターである「釣りよか」を指名いただいた状態からスタートしています。CASIO様から「釣りよか」メンバーへG-SHOCKをプレゼントしてもらうなど、クリエイターとの関係構築を重ねたうえで、タイアップ動画を「釣りよか」マターで作成・公開。その後、その動画素材を活かした広告動画を配信するという、複合的な施策を実施しました。
特筆すべきは、CASIO様が「釣りよか」を“応援する”スタンスを貫かれたことです。中村さんがおっしゃった商品の提案も、決して押し付けではなく、あくまで「クリエイターが撮りたい動画」を盛り上げるためのツールとして、最適なものを選んでいただきました。
MZ:「商品ありき」でコラボクリエイターを決める企業も多いかと思いますが、CASIOとして「クリエイターありき」の施策に踏み切られたのはどうしてですか。
中村(CASIO):前提として、現代は「広告が嫌われる」時代だと思っています。一方で、クリエイターとファンダムの結びつきは強くなっており、「ファンが求めるものを届ける」重要性は増しているでしょう。「釣りよか」のみなさんには、「動画がおもしろくなるならG-SHOCKを使ってください。邪魔になるなら映さなくてもいいです」とまで伝えています。広告らしさを出さず、企業は純粋に“応援”のスタンスをとることで、ブランド好感度の向上につながるのではないかと考えました。
MZ:今回はタイアップ施策の盛り上がりを経て、広告配信へフェーズを広げられました。その経緯を教えてください。
中村(CASIO):タイアップ施策はそのクリエイターの熱心なファンには深く刺さりますが、コミュニティの外側にまで情報を広げていくには限界があります。「釣りよか」内で生まれた熱量を、隣接する界隈や、同じ文脈(コンテキスト)を持つ層にどう広げていくか。その手段を模索していました。
ちょうどそのタイミングでUUUMマーケティングの利光さんと出会い、コンテキストを起点に熱量を拡張する具体的な提案をいただいたことが、今回のプロジェクトが大きく発展するきっかけとなりました。
関心が最大化する「瞬間」を狙い撃つ。YouTube広告活用の極意
MZ:今回の広告施策における方針と狙いを教えてください。
利光(UUUM):一般的な広告配信というのは、アフィニティーやKWを用いて「釣りに興味のあるユーザー」にターゲティング配信するというのが定石なのですが、私自身、この手法には一種の限界を感じておりました。というのも、このターゲティング手法では、「今、釣りに強い興味を持っているユーザーに配信できているかはわからない」ためです。
一方でタイアップ広告には「ファンダムのみにリーチが留まってしまう」「施策効果が短期的である」という明確な弱みがあります。では、各ファンダムを制覇するためにクリエイター一人ひとりと個別にコラボするかというと、それには莫大なリソースとコストが必要になります。この構造的なジレンマを突破する方法を模索していました。
そこで私たちが打ち出したのが、釣りコンテンツを「今、この瞬間(モーメント)」に視聴しているユーザーへダイレクトに届ける広告配信です。フリークアウトグループのアセットである「GP YouTube Contextual Targeting(以下、「GP」)」を活用して実現しました。
「釣りよか」を取り巻くファンダムの熱量を、“今、釣りに猛烈な関心を持っているユーザー”であれば伝播させられるのではないか——それが本施策の狙いとなります。
MZ:GPは具体的にどのような機能があるのか、今回の施策ではどのような設計をしたのか教えてください。
韓(GP):GPはコンテンツの内容を映像情報と動画説明情報を総合的に解析することで、ブランドと親和性の高いコンテンツを選定し、ユーザーの熱量が高いタイミングを狙って広告配信できる技術です。今回で言えば、釣りに関する動画をまさに“今”見ている視聴者に対し、「釣りよか」を使ったクリエイティブを届ける、といったイメージになります。
今回の配信では、「釣りよか」とのタイアップ動画を用いたクリエイティブを作成し、2つの手法でのA/Bテストを実施しました。
- GPのコンテキスト解析技術で「釣り関連の動画だけ」を指定した「コンテンツターゲティング」
- Googleの管理画面で設定できる「釣り興味関心層」への「オーディエンスターゲティング」
また、広告管理画面上の数値だけでなく、計測ツール(Adobe Analytics)で遷移率や滞在時間といった数値も計測し、流入後のユーザー行動まで踏み込んだ効果検証を行っています。
CTR10倍、EC売上3倍を記録。ファンが「広告を見たよ」と喜ぶ理想的な循環も
MZ:今回の施策の検証結果や成果を教えてください。
利光(UUUM):当初の目標であった「深い態度変容」につながる、顕著な成果が見られました。通常のTrueView配信と比較して、GPを活用したコンテキストターゲティング配信は、クリック率約10倍、ウェブサイトに遷移したあとの第二階層遷移率2.1倍、滞在時間2.2倍という結果となっています。遷移単価にして15分の1にまで抑えることに成功しました。
また今回、「『釣りよか』ファンダム以外にも届けること」が広告としてのミッションでしたが、結果は全リーチのうち82%が「釣りよか」登録者外。パフォーマンスの高さをキープしながら、ファンダム以外の「釣り」文脈のなかにいる膨大なターゲット層にリーチし、態度変容を促すことに成功したと言えるでしょう。
また今回の検証では滞在時間、遷移率といったユーザーの興味関心を表す指標と視聴完了率との相関は見られませんでした。視聴完了率の高い動画の内訳を調査してみると、「アニメコンテンツや長尺コンテンツが多く、コネクテッドTV上で子どもが見ているケースなどにおいて、広告をスキップしていないから視聴完了率が高かったのでは」という仮説が立てられます。
一般的に「視聴完了率が高い=ブランド理解が深い」と盲信されがちですが、「スキップされない状況で流れているだけ」の再生に、真の態度変容は宿りません。数値の裏側にある「視聴の質」を見極める重要性が、今回の検証で浮き彫りになりました。
MZ:実際の売上やファンダムの反応など、CASIO側から見えた成果もあれば教えてください。
中村(CASIO):「G-LIDEシリーズ」のEC売上は、前年比で3倍という結果でした。また通常、タイアップ施策は初速が最大化し、その後は縮小していくものですが、今回は広告配信中3ヵ月にわたり高い売上水準を維持できた点も特徴的でした。
加えて、ファンダムの熱量も強く感じました。「釣りよか」のタイアップ動画やSNSには「広告見たよ!」とポジティブに報告するファンが多数見られ、リアルイベントでは視聴者の方に「釣りよかを応援してくれてありがとう」と声を掛けていただく場面がありました。そのレベルにまで、ブランドが深くファンダムに浸透しているという事実が衝撃ですし、非常にうれしかったです。
ただ、今回の取り組みで得られた最大の収穫は、短期的な売上増以上に、G-SHOCKの本質と共鳴する形でブランドを自然に露出させ、その結果、熱量の高いコミュニティの中で受け入れられる構造を設計できたことにあります。一過性の成果ではなく、中長期でファンを増やしていくための土台を築けたことこそが、本質的な価値でした。
3者が語る成功要因。カギは「コンテキスト重視」の共創
MZ:今回の成功要因を、みなさんはどのように捉えられていますか。
中村(CASIO):今回の成功要因は、ファンダムの中で受け入れられる土台を作ってから拡張するという、プロセスの順番を間違えなかったことだと思っています。
今回の事例は単にYouTube広告の運用手法を示すものではありません。まずファンダムを深く理解すること。次に、その中でG-SHOCKが自然に受け入れられる状態を作り、熱を生み出すこと。そして、その熱を損なわずにどう拡張するか。この順序を守れたことが大きかったと考えています。
広告は起点ではなく、あくまで拡張の手段です。ブランドの本質と文脈が噛み合っていなければ、どれだけ精緻なターゲティングをしても意味はありません。「コンテキスト×ファンダム×テクノロジー」。この三位一体を、熱を生む設計から一貫して積み上げていくこと。それが、ブランドとコミュニティが共に成長していくための一つのあり方だと捉えています。
竹縄(UUUM):「コンテキスト重視の設計」が初期からできたことが重要だったと思います。もし、CASIO様が「この動画を撮って」と一方的に指定していたら、このような結果にならなかったはず。「なぜこのクリエイターがこのブランドで動画を作るのか」、納得できる理由がなければファンの心を動かすことはできません。また単発ではなく、広告も含めて中長期的にコミュニケーションをとったことも、ファンダムにブランドが浸透した要因のひとつと考えています。
韓(GP):GPは映像や音声を含めたコンテンツ全体を多角的に判断しているため、たとえば釣り同様に「魚」を扱う動画でも、視聴者が「料理・食事」を目的としている「捌き方」や「寿司」といった動画を明確に判別してノイズとして排除することが可能です。
さらに同じ「釣り」コンテンツ内でも、より広告の訴求内容との親和性が高いコンテンツへとリアルタイムで配信を最適化できるため、文脈の純度を守りながら着実にパフォーマンスを向上させる運用を実現しました。
「ファンダム×テクノロジー」が切り拓く、マーケティングの新たな勝ち筋
MZ:今回の成果を踏まえ、今後挑戦したいことや、フリークアウトグループに期待していることを教えてください。
中村(CASIO):今回の取り組みを通じて、ブランド単体では届かなかった層と出会える可能性を実感しました。だからこそ、この思想をグローバルでも再構築していきたいと考えています。最大の収穫は、「ファンダムの熱量を起点に設計する」という考え方を実装できたことでした。この本質自体は、国が変わっても大きくは変わらないと思っています。
ただ、今回は私自身のファンダム理解が前提にありました。海外市場では、文化圏ごとにファンダムの構造や関係構築のプロセスが異なります。だからこそ、各国の文脈を深く理解し、ファンダムとの関係構築から共に取り組めるパートナーが不可欠です。UUUMはクリエイターやファンダムとの関係を長期視点で捉えている企業であり、フリークアウトグループとしてテクノロジーも備えています。海外でも、関係構築の段階から一体で設計していける存在だと感じています。そのうえで、ファンダムの中で生まれる熱を大切にしながら、これからも国内外へG-SHOCKの魅力を丁寧に伝えていきたいと考えています。
MZ:最後に、インフルエンサー施策やYouTube広告の改善に悩むマーケターに向けて、メッセージをお願いします。
利光(UUUM):クリエイターとのコラボを成功に導くためには、まずクリエイターのファンになっていただくことが一番の近道だと思います。実際にそのコミュニティやファンダムの熱を肌で感じれば、印象や考えは180度変わるはずです。私は今回、中村さんが行ったアプローチが正にそのお手本だと考えています。
UUUMの強みは、クリエイターと企業の目線をすり合わせ、両者の想いをベストな形で着地させられること。加えて、フリークアウトグループの一員になったことにより、GPのようなテクノロジーを使った検証ができるようになったり、詳細なレポートが出せるようになったりと、「単発のバズでは終わらない支援」が可能となりました。これからもファンダム経済圏とテクノロジーを組み合わせた、まったく新しいマーケティングの一手を提供していきます。ぜひ、インフルエンサーマーケティングの“第一歩”にUUUMをご活用ください。
●UUUMマーケティングに関するお問い合わせご相談は「お問い合わせページ」よりご連絡ください。
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