商品開発からプロモーションまで。「知見の共有」がもたらす真価
スクラム型組織において、「学習」を支えるのが「知見の集約・一元化」である。従来の組織では、広告データは広告担当、調査データは研究担当といった具合に、情報がサイロ化しがちであった。しかし、生活者のカスタマージャーニーは一貫しているため、チーム全員が同じ情報にアクセスできる環境を整えることにしたのだ。

このデータ共有が劇的な効果を発揮したのが、「THE ANSWER」の事例である。当初、ブランドの核として研究側が強くアピールしたいと考えていたのは、「世界初」の技術や「5大美髪成分」といった機能面であった。一方、シャンプーを手に取って髪に塗り広げてから泡立てるという独自のメソッド「塗り洗い」については、社内の優先順位は決して高くなかった。
しかし、発売後にSNS上のオーガニックな投稿やUGC(ユーザー生成コンテンツ)を分析したところ、多くの顧客が「塗り洗い」の驚きや楽しさを発信しており、これがロイヤリティの源泉になっていることが明らかになった。
「みんなが同じデータを見て、塗り洗いがお客様にとって大事だねと納得することで、プロモーション側の見せ方を調整していくだけでなく、研究側からも『塗り洗いを重視した開発をもっとできないか』という自発的なアイデアが出てきました」(山岡氏)

この「納得」こそが重要であると山岡氏は強調する。上からの指示ではなく、客観的な事実に基づき自分たちで導き出した答えだからこそ、メンバーの動きは加速する。結果として、研究側から「内から塗り」を提案する新商品の開発が提案されるなど、知見の共有が納得度の高い「自走」へと繋がっていったという。
管理ではなく「メンター」に。サーバント・リーダーが引き出すチームの力
組織変革の最終的な鍵は、マネジメントのあり方の転換にあった。山岡氏は、これまでの「支配型リーダー」から「サーバント・リーダー(支援型リーダー)」へのシフトを説く。
「今までは管理マネージャーが上にいて、メンバーが下にいる構図でしたが、それを逆にしていきました。ミドルマネジメントは若手を管理するのではなく、メンターの意識を持ち、若手が活躍できる風土作りを行っていったのです」(山岡氏)

かつての支配型リーダーが「指示・権力の行使・失敗への罰則」を特徴としていたのに対し、サーバント・リーダーは「部下への傾聴・信頼構築・失敗から学ぶ環境づくり」を重視する。メンバーが上司ではなく「生活者」を見て仕事ができるよう、完璧を求めずアジャイルに進めることを前提に、リーダーは「最終リスクの受容」という覚悟を持ってチームを支えるのである。
「支える人がやることは、各部門から適切な人を連れてくる環境づくりです。高速PDCAを回すメンバーに対しアドバイスを送り、リスクを背負いながら挑戦を後押しします」(山岡氏)
花王のV字回復は、この「共感・自走・学習」のサイクルを組織に根付かせた結果であり、テクノロジーが進化する現代こそ、原点である「人間らしさ」を軸にしたチームビルディングが最強の武器になることを証明している。
山岡氏は最後に、「皆様も組織の中にいらしたり、チームを束ねる役割を担っていたりすると思います。本日のチームビルディングのお話が、そうした普段の実務の中で少しでも取り入れられる情報になれば嬉しいです」と語り、講演を締めくくった。
