経営に「愛される」マーケティングを目指す
国内最大規模の法人データベース「LBC」を提供するユーソナー。同データベースは、企業の支社・店舗・工場まで網羅した1,250万拠点の情報を保有している。
さらにクローリングだけでなく、書籍や紙ベースで公開される情報も含めた名寄せやマスターデータの更新・追加を行い、網羅性と鮮度を高め続けている。
このようにデータに強いユーソナーだが、今回の講演は経営層から「愛される」マーケティング、すなわち全社的な視点で経営指標へ貢献するマーケティングをテーマとして、同社のマーケティング戦略とデータベース活用の実践事例を明かした。
売上は向上したが……現場がぶつかる「経営指標」とのズレ
マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールスへリードをパスし、中間指標をクリアしながら最終的な受注へとつなげていく。その過程で多くの企業が「展示会で5,000枚の名刺を集めた」といった「数」の達成に終始し、その先のプロセスが停滞してしまうと湯浅氏は指摘した。
この課題を解決するには、各部門の中間指標が部門最適で終わらず、経営指標とリンクしていることが重要だ。その視点に立ち、マーケティング部門は「リード数」から「ターゲットとしている有効リード数」「案件化」「商談化」、最終的には「受注数」に寄与すべきだという議論もある。しかし、これは「営業に愛されるマーケティング」であり、経営層の狙いとは必ずしも一致しないという。
ユーソナーも、こうした現場と経営指標のズレを経験した。戸崎氏はユーソナーの決算説明資料を提示し、ユーソナーの経営層は売上高やARRに加え、チャーンレート(解約率)を重要な指標とみなしていると説明した。
「流行を反映したメッセージングでサイトアクセス数やウェビナーの申込者数を稼ぎ、その結果として一時的に売上が上がったとしても、継続率が高くなければチャーンレートを重視している当社の場合は意味がありません。売上は向上したが、経営の重要指標であるチャーンレートはマイナスの結果となったという施策は部分最適と言えます。こうしたズレを防ぐには、短期的視点に留まらず、経営指標に貢献できるプロセスと施策を構築することが重要です。そのためには、マーケティングの入り口段階で適切なメッセージを届ける必要があります」(戸崎氏)
メールを送るほど増える「配信停止」のジレンマ
続いて湯浅氏と戸崎氏は、マーケティング部門の現場で起こっている課題を整理した。マーケティング部門が担う重要なミッションは、インサイドセールスやセールスが接点を持つための「リード獲得」だ。そのためにはマーケティング部門がアプローチできるメールアドレスなどのコンタクト情報をいかに増やすかが問われる。しかし、マーケティング活動の中だけでも部分最適に陥ってしまう場合がある。
戸崎氏は、5万件のハウスリストを保有する企業を例に挙げた。この企業は月1,200件の新規リードを獲得し、ハウスリストに向けてメルマガやウェビナーの集客などで月10回のメール配信を行う。一見、セオリーどおりのよくある運用だが、これではリストは増えないという。メールを送れば送るほど、「配信停止」の数も増えるからだ。
「新規リード1件の獲得コストは注目されますが、配信停止による損失は意外と見落とされがちです。0.2%の配信停止率でも、配信する母数が増えれば増えるほど無視できない数になる。これをどう低減していくかが課題です」(戸崎氏)
解決策は、セグメンテーションを徹底し、興味がある人にのみメールを送ることだ。シンプルだが、実践するのは難しい。
たとえば製造業の営業職に向けてセミナーを開催する際、データを活用して「都内、売上100億円以上、3年業績が伸びている、営業部長」と厳密にセグメントすると、アプローチ対象の母数が限られてしまい集客できない。
しかし、集客のために関係の薄い部署まで対象を広げると配信停止を招いてしまう。マーケティング部門の現場では、こうしたジレンマが起こっている。
「送りたい人」より「送らない人」を考える
メール配信をめぐる課題について、ユーソナーは、2つの視点で施策を実施しているという。1つは、ターゲットを絞りピンポイントでアポイント獲得を狙う「点の施策」。もう1つは、ターゲットを絞りすぎず広くアプローチする「量の施策」だ。
量の施策で重要となるのは、メールの配信先を選定する際、送りたい人を選ぶのではなく、送りたくない人を除くことだ。製造業の営業に向けたセミナーであっても、実際はマーケティング部門や経営企画部門、または卸売業の方にもニーズがあれば参加してもらいたいということは多い。そうした場合はあえてターゲットを設定して配信する必要はない。
ここで必要なのは、リストを守るため、全く関係ないであろう経理部門や病院などを配信先から除くことだ。これにより配信停止のリスクを下げることができる。
「ありがちなのが、申込数や資料ダウンロード数などのKPIを達成するために送付先を増やした結果、配信停止によりハウスリストが減ってしまうパターンです。セミナーに50人集客するために、その裏側で300件の配信停止が起こっているとしたら、あまり意味がありません。適切なセグメント条件が決まらない場合は、絶対に送るべきではない対象を除外することを意識するだけでも、マーケティング資産の価値は高まりやすいと思います」(戸崎氏)
配信停止率3割減。解約率も改善した4つのセグメント事例
「量の施策」で失わないように守ったハウスリストを使って、アポイント獲得などのより直接的な効果を狙うのが「点の施策」だ。効果的なセグメント例について、ユーソナーのデータベース「LBC」の活用方法も交えて解説された。
1つめが、「基本属性」によるセグメントだ。LBCに登録された基本属性(売上高や従業員数、決算月、業種)を活用することで、新規ターゲットに対して必ず1回は案内したいメールを抜け漏れなく案内することが可能になる。
2つめの活用例が「部署カテゴリ・役職クラス」によるセグメントだ。ひとくちに「営業部」といっても、その名称は「セールス部」「第一営業部」「BPO部門」など多岐にわたる。ユーソナー社のサービスはこうした企業ごとの部署名・役職名の違いも把握したうえで分類できるため、より精度の高いセグメント配信が可能となる。
3つめの「ストーリー/導入タグ」によるセグメントは、「点(質)の施策」を後押しする。LBCのデータからターゲットのインテント(興味関心)および導入システム/ツールを把握することで、「A社は採用強化中だから、育成に関するコンテンツを配信しよう」といった仮説を打ち立て、アプローチすることが可能になる。
最後が、戸崎氏が「個人的にもっとも効果的だと感じている」という「グループ攻略」だ。資本関係や本支店関係といったグループ情報を網羅していることで、グループ内の1社をフックとして提案を拡大することができる。通常、メール配信によるアポイント率は1%以下だが、グループ攻略によるメール配信では平均アポ取得率2.08%、最大アポ取得率7.57%という成果をあげた。
ユーソナーでこれらの施策を実施した結果、年間配信施策数が前年比123%に増加したにもかかわらず、平均配信停止率前年比70.3%(約3割減)という成果を創出した。また一時的に上昇したチャーンレートも、2025年12月末には過去最低の0.21%まで改善したという。
「組織が大きくなり、業務や施策が複雑化することで、部分最適はあらゆるレイヤーで起こります。マーケティング部門としてこの施策は部分最適になっていないか、経営から見たときにこの動きは部分最適になっていないかということを常に意識することが重要だと思っています」(戸崎氏)

