【この記事で学べるポイント】
「今月の売上目標」などの数字にばかり振り回されず、目の前の1円が「将来も続く利益」なのか「一過性の売上」なのかを見極める意識が身に付きます。
マーケティングが担う3つの役割
MarkeZine編集部(以下、MZ):マーケティングの部署に配属されたばかりだと、目の前のタスクや売上目標の達成に振り回されてしまうことがあると思います。そもそも、会社ごとに「マーケティング」という言葉の理解や、業務の範疇が違っていたりします。
西口:そうですね。それが原因で混乱する新任の方も多いと思います。
マーケティングの部署が、宣伝活動を中心に担うケースも、開発への関与から売上責任まで負うケースもあるでしょうが、私は「『誰に(WHO)』『何を(WHAT)』提案するのか」が根本にあると考えています。そして、それを見出すためには「なぜ買っていただけるのか」という顧客心理を捉えることが不可欠です。その上で、「どう伝えるか・どう売るか(HOW)」を設計し、あまたある手法から選択する……という順番です。
MZ:西口さんの初心者向け連載『西口さん!難しいことはわかりませんが、マーケティングで一番大事なことを教えてください』の初回で、マーケティングの定義を解説されていましたよね。
西口:はい。「顧客のニーズを洞察し、顧客が価値を見出すプロダクトを生み出すこと。さらに、その価値を高め続けて継続的な利益を生み出し、その利益を再投資して新たな価値を作り続けること」だと捉えています。図解すると、次のようになります。
(1)顧客のニーズを洞察し、顧客が価値を見出すプロダクト・サービスを作る
(2)その価値を高め続けて、継続的な利益を生み出す
(3)その利益を再投資して、新たな価値を作り続ける

「良い売上、悪い売上」を見極める力こそ、マーケターの“OS”
MZ:価値の提案を通して得るものは、「売上」ではなく「利益」なのですね。
西口:いいご指摘ですね。多くの企業で、「今月の売上目標〇〇円を達成しよう」といった声掛けがされていると思います。売上も、もちろん事業成長や施策の成功における重要な指標です。でも、売上額の数字にばかりとらわれてしまうと、大事なことを見落としてしまいます。
それは「売上が上がれば成功」という考えが、時に事業を毀損しかねないことです。
たとえば、目標額が足りないからと「今だけ全品半額」のようなセールを打ったとします。一時的に数字は跳ね上がりますが、その時のお客様は定価に戻したら購入しない、一過性の顧客になる確率が高いです。むしろ「定価で買うのは損だ」というイメージを持ってしまいます。こういうお客様ばかり集客した商品が中長期的に残るかというと、NOでしょう。
MZ:確かに……。
西口:現場では、「1万円の売上」はどんな売上でも等しく1万円として計上されます。払った方が新規顧客でも、継続顧客(既存顧客)でも、変わらないですよね。

西口:ですが、その中身は一律ではありません。事業を強くする「良い売上」と、集めるべきではない「悪い売上」が混ざっています。
MZ:1万円の売上に、種類があるのですか?
西口:はい。大前提として、新規顧客の獲得には、相応の獲得コストがかかります。次の図のように、売上からコストを引くと、残る利益は新規顧客と継続顧客で大きく差が出てしまうのです。私の35年の実務経験から考えると、住宅や車のような「1回きりで利益を得る」ビジネス以外、ほとんどのビジネスで初回購入は赤字になります。

西口:とはいえ、継続顧客は必ず減っていくので、一定数の新規顧客の流入は必要不可欠です。大事なのは、継続顧客を維持しながら、継続につながりやすい新規顧客を獲得し、「良い売上」を積み上げていくことです。
