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第8回 Web2.0以降のデザイン・プロセス(後編)

いわゆる「デザイン」はデザイン・プロセスの一部でしかない

 さて、この「反復デザイン」のプロセスにおいて特徴的なのは、一般的にデザインだと考えられている作業は、全体の中の「4. 設計による解決案の作成」のみだという点です。それ以外のプロセスは、これまではデザイン作業の一部としての認識が薄かった部分ではないでしょうか。

 しかし、最初に示したような状況の変化が「4. 設計による解決案の作成」の段階のみをデザインと考えることを許さなくしています。ユーザビリティに関する書物としては、いまや古典の部類に入るドナルド・A・ノーマンの1988年の著作『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』では、電話機が「電話をかける・受ける」という基本的な機能以外にも多くのものを持ち始めると同時に、人々が電話をうまく扱うことができなくなった例が紹介されています。

 保留や転送、内線で在席確認をした上での転送、コールバック、ほかの電話機にかかってきた電話を自分の席でとる場合など、現在では何の苦もなく使える機能です。しかし、ノーマンが本を書いた時代では、増えた機能(そして、同様に増えた利用用途)にデザインが追いつかず、どうすれば保留転送が可能なのか、どうすれば隣の部屋で鳴っている電話を自分の席でとることができるのか、目の前の電話のデザインからはまったく想像できないという状況があったようです。

ドナルド・A・ノーマン 著、野島久雄 訳
『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』(新曜社)
 

 現在のWebデザインをめぐる環境は、まさに当時の電話のデザインが置かれた状況と非常に似ているような気がします。利用用途やそれに応じた機能が増え、その機能を実現するデザイン手法も増えています。しかし、どのような利用シーンにどのデザイン手法を用いるのが適切かといった標準的なモデルは生まれていないのが今の状況です。そうした状況においては、単純にうまくいっているほかのデザインをまねることで、ユーザビリティなどの問題を解決することはできません。

デザイン・プロセスの再定義

 従来のデザイン手法に頼ることなく、「2. 利用の状況の把握と明示」、「3. ユーザーと組織の要求事項の明示」、「5. 要求事項に対する設計の評価」を含むデザイン・プロセス全体をデザイン作業として再定義することが必要でしょう。また、実際にデザイン作業を行うデザイナー以外にも、調査担当者、分析担当者やテスト担当者などをデザイン・チームに迎え、モノをデザインするというよりも、ユーザーの利用経験そのものをデザインするという発想が求められるのではないかと思います。

 

 もうひとつ重要なのは、ユーザーの利用経験そのものをデザインする意味において、デザイン・プロセス全体を「継続的改善のプロセス」と位置づけることです。というのも、「ISO13407」の循環的プロセスに「2. 利用の状況の把握と明示」というプロセスが含まれています。これはユーザーの利用状況そのものが変化しうるものとして捉えられているからこそでしょう。ひとつの新しいデザインが提供されれば、当然、以前とは違う利用状況が生まれますし、周囲のデザインが変わればそこでも利用状況に変化が生じます。以前使い慣れていたはずのものが新しいデザインのものを使い慣れてくるのにしたがって、使いにくく感じることも当然あるはずです。

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組織というインタラクティブ・システム

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この記事の著者

棚橋 弘季(タナハシ ヒロキ)

芝浦工業大学工学部(建築学専攻)卒。マーケティング・リサーチ、Web開発等の仕事を経て2003年より株式会社ミツエーリンクスに。現在はWebを使ったマーケティングに関する企画や自社サービスの開発に従事。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2007/02/09 16:30 https://markezine.jp/article/detail/711

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