スポンサーとリスナーが協力しながらサポートする番組
『あ、安部礼司』は、コンテンツとしての人気だけでなく、当初の目的であった日産自動車とリスナーとの絆作りや販促効果という面でも、効果をあげている。番組内では、登場人物それぞれに愛車として日産自動車の実在する車種が設定されているほか、過去にはファン投票で安部家のファミリーカーを決めるといった企画も実施された。「キューブは安部君の車、ウイングロードは飯野君の車」といった風に、ファンにとって日産自動車の車がより親しみ深く身近な存在となっている。
日産自動車自体が架空の企業「N社」として番組内に登場するという設定を生かしたキャンペーン展開も行っている。以前、日産自動車サイト「N-LINK」にWeb限定のスピンオフ番組を付帯コンテンツとして設置したところ、N-LINKの会員登録数が増加。また、Webサイトだけでなく、昨年11月~今年3月まで、日産自動車の各販売店で『あ、安部礼司』オリジナルステッカーを配布するという、リアルでの店頭誘引を目的としたキャンペーンも実施。来店者へのアンケートでは、「来店理由」の項目で初めてラジオが1位になるという快挙を成し遂げた。
このように、ラジオ・Web・リアルとさまざまにクロスメディア展開を行いながら、リスナーとコンテンツ、そしてスポンサーをつなぐ取り組みを続ける『あ、安部礼司』。自動車業界の全体の広告費が下がっているにも関わらず、今年度の番組続投が決まったのも、番組自体の価値やリスナーからの信頼感を保ちながら、クライアントの伝えたい情報を消費者に伝える試みや、こうしたさまざまな販促効果が、評価されてのことだといえるだろう。
もちろん、主要ターゲットが30代ということもあり、リスナーもその辺りのオトナの事情には理解がある。番組とリスナーとの垣根を越えた、そんな温かい目線こそ『あ、安部礼司』の最も素晴らしい部分だと坂野氏は語る。
「この企画で一番素晴らしいのは、スポンサーからリスナーまで、皆にファミリー感があるところ。リスナーは番組を聴いたりイベントに参加したりすることで、番組をサポートしているし、日産自動車様からは番組提供をしていただく。リスナーもスポンサーもハッピーになるにはどうしたら良いのか、色々な企画を考えるのが私たちの仕事です」(坂野氏)
ラジオは絆作りに回帰する
『あ、安部礼司』の成功は、ラジオ業界全体から見ても非常に示唆的なケースだといえる。2008年のラジオ広告費は1,549億円(電通調べ)。これは前年比92.7%の金額となっており、特にスポットCMは減少傾向にある。こうした状況下で、『あ、安部礼司』のように、1社提供の引き合いが増えてきているという。最後にラジオ業界の今後について、両氏に伺った。

「もともと、ラジオはブランディング目的で出稿いただくケースが非常に多い媒体でしたが、最近では特に『番組提供をしたい』というお話の方が、多くなっています。『あ、安部礼司』の成功にも言えることですが、ラジオ番組でブランディングに成功しているものは、どれもコミュニティができます。
そういう意味では、番組を軸に、リスナーがその価値やエンターテイメントを共有できる場がちゃんと用意されていることが、今のヒットの秘訣なのかなと思っています。『その番組とリスナーとの繋がり』を広告主様には評価してもらう。その目に見えない絆をどうアピールしていくのか、というのが今後の我々の課題だと考えています」(嶋氏)

「いくらクロスメディアのフレームを作ったところで、リスナーの信頼を裏切るようなコンテンツだったら意味がありません。『あ、安部礼司』では、とかくクロスメディア展開が注目されがちですが、それらの展開はあくまで結果に過ぎないのです。起点として『30代の人を応援したい』という強い想いがある。『絆作り』で言えば、他のメディアに比べて、ラジオが一番得意なジャンル。そのニーズは今後増えるのではないでしょうか」(坂野氏)