ラジオの枠を超えた人気『あ、安部礼司』
この物語は、ごくごく普通であくまで平均的な37歳の安部礼司がトレンドの荒波に揉まれる姿と、それでも前向きに生きる姿を描いた勇気と成長のコメディである。
日曜の黄昏時、若さと渋さの間で揺れるナイス30'sのアナタに贈る『鼻歌みたいな応援歌』を、ツボな選曲とともにお楽しみ下さい!
このお決まりのフレーズが印象的なラジオドラマ『NISSAN あ、安部礼司~beyond the average~』(以下、『あ、安部礼司』)。日産自動車の1社提供で放送されているTOKYO FMが誇る人気番組だ。2006年4月にスタートし、現在ではJFN系全国37局ネットで放送されている。
内容は、某電器メーカー傘下の中堅企業「大日本ジェネラル」に勤める、いたって平均的な30代サラリーマン安部礼司の仕事や恋愛、日々の生活の様子を綴ったもの。毎週「今さらツボな選曲」と称した70~90年代ポップスを中心にした選曲を交え、コメディタッチで物語が展開していく。
このラジオ番組が、各方面で話題を呼んでいる。番組内で流れる今ツボな楽曲は「TSUTAYA」のCDレンタルコーナーに特設コーナーが設置され、番組脚本集は2巻合計で3万部を突破。公開生放送を行えば全国各地からファンが集い、渋谷C.C.レモンホールで有料イベントを行った際にはチケットが即完売。ラジオドラマとしては異例とも言える盛り上がりだ。
実はこの番組には、日産自動車が主人公の取引先企業「N社」として登場する。スポンサーが番組内に登場し、しかもファンから親しみをもって受け入れられる。この点だけをとっても、『あ、安部礼司』がこれまでのような単なるプロモーションコンテンツを超えた存在であることは間違いない。
その人気獲得成功の秘訣はどこにあるのか? 企画立案メンバーの、博報堂DYメディアパートナーズ坂野晋平氏とTOKYO FM嶋裕司氏の両名に、お話を伺った。
日曜夕方、聴いた人が元気になる番組を目指して
『あ、安部礼司』スタート時、日産自動車からの要望は主に下記の3点だったと坂野氏は語る。
- 全国区のラジオ放送で、30代に刺さること
- 日産自動車とリスナーとの絆を深められること
- ラジオリスナーを超え、社会的な話題になるような企画まで広げられること
「クロスメディアという言葉は使われなかったものの、オーダーの意図としては初めから内包されていました。しかし、もともと現在のような展開を明確に狙っていたわけではありませんでした。コンセプトを重視し、ターゲットとなるリスナーをきっちりと掴むことを第一に考えています。結果としては、物凄いクロスメディアになっているけれど、必然として発生したものです」(坂野氏)
放送局であるTOKYO FMは全国38局というFM局では最大規模のネットワークを誇り、M1・F1層(20-34歳の男女)がメインターゲット。規模・主要ターゲット共に日産自動車側のオーダーと重なる形となる。上記の要望を実現すべく、TOKYO FM制作・営業スタッフ、博報堂、日産関係者、脚本家、出演者…と、総勢40名近い人間が一丸となって『あ、安部礼司』に取り組むこととなった。
坂野氏は企画立ち上げ段階で、まずターゲット像の徹底的なプロファイリングを行ったという。坂野氏を含め、番組制作スタッフのほとんどがターゲットとなるリスナーと同世代。何よりも自分達が楽しめる番組でなければ、リスナーも楽しめないという予測のもと、幼少期~現在に至るまでどのようなメディア・音楽・映画・時代を体験しながら過ごしてきたのか徹底的に洗い出した。また、そういう経歴を経て大人になった今、何に共感し、何に不安をもっているのか、今後の人生についてどんなことを考えているのかといった、同世代だからこそ分かる細かい感覚を番組内に織り込んだという。
「三十代半ばというと、子供が増えたり、会社では管理職手前なのに責任がだんだん大きくなってきたりと、色々大変だと思うんですよね。それに、これくらいの年になってくると、なかなか褒めてくれる人もいなくなる。そうした人達を元気づけるような企画にしたいっていう思いがありました。
放送日時が日曜夕方なので、この番組を聴いて『来週も頑張ろう』という気持ちになって、次の一週間を過ごしてもらいたい。説教臭いので露骨には表現しないのですが、大変な状況の中でどうやって幸せに生きていくかのヒントを提供したい、というのがコンセプトとしてあります」(坂野氏)