ミッション:Webという枠組みにとらわれず、純粋に強い表現を追求する
インターネットやWebを活用した先進的な広告事例で高い評価と多くの実績を誇る株式会社イメージソース。しかし、アートディレクションを担当する川嵜氏から飛び出したのは、意外にも「Webにこだわりはない」との言葉だった。その心は、純粋に強いものが作れるなら、Webという枠組みにとどまる必要はないという会社全体の強い意志である。
「イメージソースグループは4社で構成されており、株式会社イメージソース、株式会社ノングリッドが主にWebデザインやインスタレーション、インタラクティブ・デバイスの制作を行い、S2ファクトリー株式会社はシステム開発や運用、株式会社タグルはイメージ検索サイト「Tagle」の運営を行っております」
いわゆる王道のグラフィックデザインから、最近急速に普及しつつあるデジタルサイネージなど、店舗内などで展開するインタラクティブ広告まで。面白い仮説を立てて試行錯誤し、実現するところまでが仕事の領域、と語る川嵜氏に、アートディレクターという仕事のやりがいや苦労について聞いてみた。
「仕事におけるミッションはさまざまですが、常に意識しているのは、Webに限らず、中途半端なものは作らないということ。極端な言い方かもしれませんが、Webって誰にでも作れてしまうものなので、自分たちにしか出来ないことをするというモチベーションがとても重要だと思っています」
ここ最近の仕事の中で、川嵜氏が代表作と語るのは、株式会社projector代表であるクリエイティブディレクター、田中耕一郎氏と組んだユニクロのプロモーションサイト「UNIQLO MEETS CORTEO」だ。
「このサイトの企画は、シルク・ド・ソレイユの最大の演目であるコルテオとユニクロとのコラボレーションをドキュメント型の広告として、オタワ、マイアミ、東京という時間軸の中で、メディアを組み立てながら展開していくというものでした。こういう長期の時間軸を持ったドキュメントコンテンツの見せ方というのは、Webというフレームでしか実現できないものだと思います。次に何がアップロードされるかわからない。作り手の側もわからない。進行は決してスムーズなものではありませんでした。
そんな中、アートディレクターとして気をつけた点はユーザーの体感値。ユニクロとコルテオのコラボレーションが、どんどん受け手に近づいていく感覚を体感できるように留意して設計をしました。実際の制作では2つの軸があり、ひとつはドキュメントをどう切り取るかという軸。もうひとつは、Webならではの新しいドキュメンタリーフォーマットの軸。さらにその2つを実際に組み合わせたときの落とし込み。制作期間は去年の5月から今年の5月までと、ほかのプロジェクトも含めてほぼ1年間、ユニクロの仕事しかしていない状況でした(笑)。
こういったサイトでは、ユーザーがそこでどんな体験をするのかという体験フローの設計がとても大切です。また、どういう世界観の中でユーザーが体感するか、体験とビジュアルのバランス感もとても重要です。リアルイベントや印刷物などと組み立てて、全体をキャンペーンとして組み上げていく企画では、全体的なバランス感や落としどころは、作っていてはじめてわかる部分も大きい。だからこそ、トライ&エラーは最後の最後まで繰り返します。実際に我々の立ち位置は、キャンペーンの中でもインタラクティブがコア領域ではありますが、俯瞰した目を持つことも大切だと思っております」
ではより具体的に、インタラクティブ広告におけるアートディレクターの仕事とは、どのようなものなのか。一般的なワークフローについて解説してもらった。
「自分自身は、アートディレクターとデザイナーという2つの役割をもっています。アートディレクターとしての仕事は、社内外のクリエイティブディレクターやテクニカルディレクターと組み、企画をどう実際に落とし込んでいくかを考えること。絵づくりやものづくりという観点から、どうしたら強いものが作れるかを常に思考し続けています。実際の制作フェーズに入ると、デザイナーとして自分で手を動かしてディティールを試行錯誤する日々が続きます。このフェーズでは、アートディレクターとしてキャンペーン全体に対して俯瞰の視点を持つというよりは、実際に手を動かす作り手としての意識が強いですね」
川嵜氏はこのような形態をとる理由のひとつとして、インタラクティブ広告の制作における分業の難しさをあげる。
「例えば、近年のプロジェクトではSonyの「REC YOU.」など、ダイナミックにインタラクティブを用いたキャンペーンのサイト制作では、複製して量産できるページが非常に少ない。デザイナーをつけて一緒に動くことももちろんありますが、クオリティ面を考慮すると、どうしても自分で手を動かして落とし込んで行かないとわからない部分がとても多いのです」
川嵜さんが仕事におけるキーパーソンと語るのは、テクニカルディレクターの清水幹太氏だ。「決して仕事がやりやすい相手とは思われていないと思う」そうだが、インタラクティブを表現手法として形にしていく上で、お互いになくてはならない関係性を築いている。
プロジェクトの体制はケースバイケースだがクリエイティブディレクター、アートディレクター、テクニカルディレクターの三者に、プロデューサーやプロジェクトマネージャーを加えた4~5人のメンバーが基本となる場合が多い。場合によっては、川嵜さんのもとにデザイナーが付くこともある。
ではそのように広い領域と役割をカバーする川嵜さんにとって、最も仕事にやりがいを感じる瞬間とはどのようなときなのだろうか。仕事の発注から完了まで、プロジェクトのワークフローに沿って追ってみよう。(次ページへ続く)