コンテキストを利用した訴求方法例~ラーメン屋が出した3つの看板の話
前述の“7タイプの書き方”“成功する見出しの4つの秘訣”“7つのメタファー”等は「自社」と「顧客」との間で機能する方法論である。これらは、効果が実証された非常に有効な方法論だが、「自社」のメッセージは単独で「顧客」に届くわけではない。
「競合」が発する膨大なメッセージの中に織り込まれ、さらに各メディアの特性も加味された状態で「顧客」へ届く。また、メッセージが2つ以上存在する場にはコンテキスト(文脈)が生まれる。まったく同じメッセージでも、コンテキストが異なると解釈も変わる。そこでここからは、前述の方法論とは少し視点を変え、市場環境全般のコンテキストを利用して訴求する方法について考察する。市場環境について分析する際、フレームワークとして3C分析が有名だが、これを発展させたものとして“4C分析”というフレームワークも存在する。
- 自社(Corporate)
- 顧客(Competitor)
- 競合(Customer)
- 協力者(Co-operator)
従来の3C分析に「協力者」を加えたものが4Cになる。協力者に該当する主体は状況によって異なるが、ここでは便宜上、「協力者=広告掲載メディア」と想定して話を進める。「自社」と「顧客」だけでなく、「競合」「協力者」の4者が織りなすコンテキストと訴求方法について、事例を挙げて分析を試みる。
事例1:3軒並んだラーメン屋が出した3つの看板
「昭和の爆笑王」と呼ばれる落語家、故・林家三平(初代)の有名なネタに、3軒並んだラーメン屋が出した看板についての小咄がある。フィクションではあるが、非常に示唆に富んだ事例のため、ここではその小咄を引用させていただく。
うちの近所の駅前にラーメン屋さんが3軒できちゃって、それぞれの店の親父は困りました。こうなったら看板で勝負。右側の店の親父が「日本一おいしいラーメン」っていう看板を出した。そうしたら左側の店の親父が、「世界一おいしいラーメン」と看板を出した。真ん中の親父は困っちゃって、一晩寝ないで考えて、「入口はこちら」って
【注】ねぎし三平堂編『昭和の爆笑王 ご存じ 林家三平傑作集』毎日新聞社 2008年より引用
最終的に真ん中の店は、あと出しで「入口はこちら」というメッセージを出した。もちろん、これはフィクションであり、この事例をそのまま真似てもうまくいかないと思うが、考え方自体は参考になる。この事例のコンテクストを分析すると、次のようになる。
- 協力者:メディア=看板 位置や場所の移動が発生せず、メッセージの内容も変更されない特性がある
- 競合:「右側の店」も「左側の店」も「1番おいしい」ということをアピールしている
- 顧客:右側から歩いてきた潜在顧客は最初に『日本一おいしいラーメン』というメッセージを読む。左側から歩いてきた潜在顧客は最初に『世界一おいしいラーメン』というメッセージを読む
- 自社:『入口はこちら』というメッセージを発する
このようなコンテキストによって、潜在顧客は看板のメッセージを次のように解釈すると期待できる。
道の右側から歩いてきた潜在顧客は最初に『日本一おいしいラーメン』というメッセージを読み、次に『入口はこちら』というメッセージが目に入る。道の左側から歩いてきた客は最初に『世界一おいしいラーメン』というメッセージを読み、次に『入口はこちら』というメッセージが目に入る。どちらも「1番おいしいラーメンを食べたい」と思った潜在顧客は『入口はこちら』というメッセージを見て真ん中の店に入る。
