執拗なまでの顧客中心主義を実践するオムニチュア
実は本イベントの直前に、オムニチュア製品を利用しているUSのユーザー企業の中から代表数社が集まる小規模な顧客諮問委員会(CAB=Customer Advisory Board)が開かれており、筆者も日本の代表として参加させていただいた。そこでは、各製品の詳細やロードマップを決めるプロダクトマネージャーと代表ユーザーの間で真剣な議論が交わされた。
最初は、1年前の議論の内容を振り返りつつ、この1年の各製品の改善点をレビューしたのだが、顧客の声が本当に製品に反映されていたという事実にまず驚いた。製品のバージョンアップ内容はベンダーが検討して決めるものであり、事後にその内容を受け入れるのが当たり前だと思っていたからだ。通常、改善が改悪だと思った場合は、営業にクレームを伝え、方向がズレてきて許容範囲を超えれば、他社製品を検討する。ところが、オムニチュア製品の場合は、顧客との対話と合意によって製品が方向付けられていたのだ。
こうなると、どちらも真剣だ。導入企業の担当は、困っていることを訴える。プロダクトマネージャーは耳を傾け、質問することで問題の背景にある根本的な原因を探る。「実はこんな機能を考えていたのだがどうか?」と意見をぶつける。「同じ意見の人は?」と挙手を求め、人数をメモする。最後に今後一年間の課題をまとめ、さらに最重要課題を一人ずつ選んでもらう。自分が世界的な製品のロードマップ策定に関わっていることを思い、筆者は身震いした。
そして本イベント。全部で約50のセッションがあったが、そのすべてに顧客企業がスピーカーとして参加していると最初にアナウンスがあった。昨年寄せられた意見を受けて改善した結果だという。
さらに、イベント自体のマーケティングにおいてもオムニチュア製品群の活用を含め、先進的な手法が採用されていた。名刺交換に替わるポーケンでのデータ交換。AIRアプリによる最新イベント情報の提供。Twitterやブログを活用したセッション情報の提供とコミュニケーション。締めのセッションでは、機能改善の要望に対してTwitterを使って投票を受けつけ、その結果がリアルタイムでスクリーンに映し出された。



オムニチュア内のマーケターが実践しているワークフローについては、別途セッションが設けられていて、その内容は「オムニチュア内のマーケターが実践している、“お手本”のようなマーケティングワークフロー」の記事で紹介されたとおりだ。
これらは、自社製品の機能を宣伝するための単なるデモではない。製品やサービスを育て、「より良くするためにはオンラインマーケティングはこうすればいい」ということをさりげなく実践しているのだ。創立14年、18億ドルでアドビシステムズに買収されるまでに至った成長の秘訣を目の当たりにできたのは、大きな収穫だった。
知りたいことを知ろう
セッションは50近くあったものの、同じ時間帯で同時進行したため、選ぶのが悩ましいという声が多かった。どれに参加すべきかを吟味することで、自社で本当に知りたいことは何かを実感できた。プレゼンはおさらい。本番は質疑応答。濃い質問、リアルな回答。良いセッションは、ここが盛り上がる。
さらに知りたいことがあれば、質問できる環境が用意されている。日本では普段やりとりすることが少ないサポートやエンジニアの無料相談部屋。筆者も温めていたアイデアが実現可能か、自社のサイトと計測用コードを見ながら相談できた。

業界別に分かれたランチでは、お互いどうしているかを確認できる。小売りのテーブルに参加したが、規模が大きいところは自動化に力を入れていることが分かった。社内のエンジニアに開発を依頼しているという。「帰ったら体制を見直さないと」とTo-Doリストの項目がまた1つ増えた。

展示ブースでの立食では、すべてのブースを回って話を聞いた。目的が明確な参加者が多く、「こうしたいけどどうすればいいのか」「この製品ではできるのか」と熱心に具体的な質問をしている参加者が多かった。ある南米の企業担当者は、「導入を検討しているのでユーザーに直接話を聞きにきた。日本で最大級の楽天ではどうか」と言う。「体制や予算を確保して本格的に取り組まないとうまくいかないよ」などと先行者として意見させていただいた。学ぶだけでなく共有するのも参加意義の1つだ。

また、ある人からは、なぜ参加しているのかを尋ねられた。その人は、「業界内の競争が激しくなってきたのでソーシャル対応の実際や利用できるオムニチュア関連サービスを調べにきた」と言う。自分は情報収集のため、などと答えながら、それでは目的が曖昧ではないかと気が付いた。アクセス解析は、何となくレポートを眺めていても得られることは少ない。検証したい仮説を持って、知りたいことを調べると、大きなヒントが得られる。イベントに参加するのも同じで、仮説を持って参加すれば、多くを得られるのだ。
世界は少し先を走っているが、抱えている課題は同じであり、追いつけない差ではない。アクセス解析の取り組みと体制を強化し、来年は日本発の事例を紹介できるようになりたいという思いを持って帰途についた。
