2つの軸の相互作用を意識したキャンペーンの設計
大村:今度のエンゲージメントセミナーはキャンペーンがテーマですが、それぞれのお立場でキャンペーンというものをどのように捉えられていますか?
諏訪:エンゲージメントの観点でいうと、キャンペーンは有効な手段のひとつではありますが、必ずしもエンゲージメントのルールに則る必要はない気がします。サプライズを用意するとか、場合によっては意図的に裏切るとか、あるいはティザーのように隠すといったことが欠かせません。そうした要素が強くなればなるほど、エンゲージメントという文脈は弱くなっていきます。(写真左は諏訪氏)
一方で、TwitterやFacebookを活用して企業が顧客とダイレクトにつながる機会は急速に増えつつありますし、メールマガジンという古典的だけどキャンペーンの重要なフックになるものもある。
つまり、キャンペーンの効果を高める上でエンゲージメントを大切にする意味も大きいわけです。ですから、マーケティング戦略の中でキャンペーンをどう位置付け、そこにエンゲージメントという文脈をどう絡めていくのかは、各企業が考えていけばいいのではないでしょうか。
山本:逆に言えば、企業がエンゲージメントという言葉をどれだけ意識してキャンペーンを展開してきたかという点にも興味があります。キーワードとして注目を集める前から脈々とやってきたような気もするし、諏訪さんがおっしゃるようにサプライズを仕掛けることがキャンペーンの肝であったりもするので、各企業がどういう考え方で取り組んでいるのか気になります。サントリーはどうですか?
坂井:当社の場合、大小さまざまなキャンペーンが常に数十個ほど展開されています。そこには2つの軸があると思うんですね。ひとつは商品軸。BOSSをどうしよう?プレミアムモルツをどうしよう?というように、ある商品を売るためにキャンペーンを設計するという縦の流れです。従来はこの縦軸しかなかったのですが、Webが誕生して大きく変わりました。
企業の顔がはっきり見えるようになったことで、そこに「サントリーの顧客」という新たなつながりが生まれ、明らかにこの横軸を意識するようになってきたのです。自動車や家電など、もともとコーポレートブランドが強い企業と違って、消費財メーカーの場合「この商品はどこのメーカーだっけ?」ということも多い現状があります。そこに、Webを活用して横軸を通し、自社の顧客とのつながりを考えながら次のキャンペーンを設計する流れが出てきた。これは非常に大きな変化だと感じています。
横軸への取り組みが商品開発の現場をいい意味で刺激
大村:ハイボールが去年あたりからブームになっていますが、あれもキャンペーンとして取り組まれたのですか?
坂井:実は、ウイスキーの需要は1983年をピークに右肩下がり。そんな中でも、お客様に飲んでいただけるきっかけを探し続けてきました。ハイボールの場合、お客様とのコミュニケーションがうまくいったということもありますが、市場、お客様の関心の高まりをタイムリーにキャッチし、営業活動によって実際に飲める場所を一生懸命作ってきたことが大きく、そこに店頭での営業活動やCMなどの宣伝に加え、広報活動、そしてブログ・ブロガーイベン
トなどを通じてコミュニケーションを継続的に行い、かつそれらがリンクできたことがよかったのではないかと感じています。
また、飲用時品質を大事にする当社として、取引先に売って終わりではなく、実際に飲むそのときにおいしい状態を保てるように啓発活動にも力を注いできました。そうした「おいしい」という体験があれば、リピートにつながりますし、ご家庭でも買っていただけます。
諏訪:こうやってお話を伺っていても、サントリーは実直でまじめ、そしてクオリティが高い。そんなイメージがあります。だからこそ横軸への取り組みが、実は商品開発の現場にも良い影響を与えているのでは?と想像するのですが、実際のところいかがですか。
坂井:総合飲料メーカーの看板を掲げているわけですから、逆にそうでないと強みが発揮できないという危機感もあります。さまざまな部門で、ソフトドリンクで得たノウハウをお酒に活かす、またその逆を行っています。おそらく縦軸と横軸のせめぎ合いはどの企業でもあると思いますが、いい意味で健全に侃々諤々に議論しながらやっていくというのは、むしろあるべき姿ではないでしょうか。