観察を重視するフィールドワーク的ユーザー調査法
さて、ペルソナはユーザー調査に基づく仮想のユーザー像だと書きましたが、具体的にはどのような調査法がペルソナ/シナリオ法をデザインに取り入れる上で有効な方法と言えるのでしょうか。『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』のなかで、次のように述べています。
「『はっきりと分かっていないニーズ』をどのように発見すればよいだろうか。質問、フォーカスグループ、調査、アンケートでないことは確かである。(中略)ほとんどの人は真のニーズに気づいていないから、それを見つけるには自然な状況で注意深く観察する必要がある」
人はほとんどの行動を無意識で行っているため、それについてアンケートやグループインタビューなどの聞き取り調査では知ることができません。その人自身も気づいていない行動が数多くありますし、聞き手に受けそうな話題だけ選別したり、自分の失敗や仕事のコツには触れたがらなかったりなどのユーザーの修正に阻まれて事実を捉えられない場合もあります。
そのため、ペルソナ/シナリオ法を用いる際のユーザーや顧客の経験にフォーカスしたユーザー調査においては、ユーザーの意見を聞くのではなく、直接、普段のユーザーの行動を観察しながらユーザー自身も気づいていないニーズを発見するフィールドワーク的手法が必要となります。フィールドワークは、非近代的な生活をおくる異民族のことを知るために人類学者がとる手法で、現地に赴き、そこで現地の人びとと生活をともにすることで、人びとの文化を、人びとの生活を、そして、人びと自身について学ぶ調査法です。
人間中心のデザインにおいては、実際にユーザーが製品を使っている場に赴いて調査をします。また、オフィスのセキュリティなどの関係で現場に出向けない場合でも、ユーザーに調査会場に来てもらって、そこで普段どおりに製品やWebサイトを使ってもらいながらインタビューアが不明な点をどんどん質問していくコンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈質問法)と呼ばれる調査を行ったりします。
こうした観察を重視したユーザー調査から、それぞれのユーザーの個別の調査結果を物語風のシナリオとしてまとめることで、その後のペルソナを使った統合シナリオの作成につながるのです。