古くて新しいマーケティング手法『エスノグラフィー』とは何か
続いて、株式会社大伸社 m.c.t事業部 常務取締役 上平泰輔氏と取締役 白根英昭氏によって、新興国のニーズ把握において有効であるというエスノグラフィーについて、詳しく紹介された。
エスノグラフィーとは、現地のフィールドに入って観察やインタビューを行い、そこで生活する人々の文化や社会システムを理解するアプローチのこと。近年ではマーケティング手法のひとつとして、エスノグラフィーが取り入れられるようになってきたという。
ポイントは「聞くのではなく、行動を直接観察して、消費者自身も気付いていないようなニーズを探すこと」と、「現地のフィールドに入って、リアルな状況で観察すること」の2点だ。
どうしてエスノグラフィーが求められる?
エスノグラフィーが求められる背景には、従来のアプローチ手法の限界が挙げられると語る上平氏。その一例として、iPhoneのヒットを紹介した。日本で初めてiPhoneが発売された2008年7月11日からわずか13日後に日本経済新聞に掲載された「次に買いたい操作方法・形状の携帯電話」についてのアンケート結果は、『キー操作の折り畳み』という回答が男女平均約60%以上を占め、『タッチパネルのストレート』と回答した人はわずか10%にも満たなかった。
しかし、今となっては、『タッチパネルのストレート』である、iPhoneをはじめとするスマートフォンが爆発的に売れているのは、言うまでもない。「複雑化する世界では、アンケートのような従来の手法によって、イノベーションは出てこない」と上平氏は指摘した。
これまでのマーケティング手法では、製品に焦点が当てられ、企業側が用意した評価基準の中で評価し、改善されるというやり方が採られてきた。けれども、国の産業計画や文化など、何もかもが異なる新興国においては、その評価軸に意味があるのかさえわからない。
エスノグラフィーを活用して、現実世界のコンテクストの中で人々の活動を理解することから未対応のニーズを探る「人間中心のアプローチ」を行うことが大切である(上平氏)
新興国の『今』を知る
次に上平氏は、新興国で見られる共通点についてインドを例に挙げながら話を進めた。紹介された7点について、順番に見ていこう。
常に変化し続けるインフラ環境
facebookの伸びを見てもわかるが、新興国では何でも急速に伸びる傾向がある。
幅広い階層〜ミドルクラスの台頭
新興国では、階層がはっきり分かれていて生活格差もかなりの開きがある。インドを例に挙げると、貧困層や低成長層が減少傾向にあり、2025年には年収56万円~280万円の探求層や急成長層が5億8,300万人にまで急増されると予測されている。こういった経済状況を把握しておくことも重要だ。
情報のグローバルアクセスが急速に拡大
インドのネットカフェは1時間30ルピー(約50円)であり、驚くほど高いわけではない。facebookユーザーの伸びを見てもわかるが、中近東ではネットカフェがかなりの勢いで増えている。
ライフスタイルの変化
77%の都会の人、69%の地方の人が女性の社会進出を支持している。これまで働き口のなかった女性が外へ働きに出られるようになれば、ライフスタイルの変化が起こることも念頭に置いておく必要があるだろう。
新しい技術に対してポジティブ
老若男女問わず、新しい技術に対して積極的なのが新興国の特徴。マサイ族も携帯電話を保有している。製品の海外展開を検討する際には、ネガティブ要素を削除していくのではなく、技術的なポジティブ要素を伸ばしていった方がいい。
それぞれ異なる文化・コンテクスト
当たり前だが、新興国とひとくくりにしても、それぞれの国において文化やコンテクストは異なることを忘れてはいけない。
基本的な欲求は普遍的
文化やコンテクストが異なるとはいえ、マズローの欲求段階説で分類されているような人間の基本的な欲求は普遍的であり、低次であればあるほど、新興国でもすぐに受け入れられる可能性がある。
「エスノグラフィーを行う際には、こういった背景が前提として頭に入っていないといけない」と上平氏は注意を呼びかけた。