近年の広告テクノロジーの進化を振り返る
(1)2010年までの広告テクノロジーの進化
インターネット広告市場は、2004年頃にラジオ広告、2006年に雑誌広告、2010年に新聞広告の市場規模を抜き(電通「2010年(平成22年)日本の広告費」より)、いまだ急速に成長している。これは周知の事実だろう。
その成長過程には、様々なテクノロジーの進化が起因しているだろう。我々は、その進化を3つの視点で捉えている。その3つとは、「ターゲティング手法の多様化」「チャネルの多様化」「デバイスの多様化」である。
近年の広告テクノロジーの進化を簡単に振り返ってみよう。2006年の「Googleモバイル広告の開始」に見られるように、モバイル市場が急速に加速し始めたのがこの頃である。また、一方では行動ターゲティング広告が広まり始めたのも、同様の時期(2005年~)であった。
その後、”興味関心連動型広告”というキャッチフレーズと共に「Yahoo!インタレストマッチ」が、2008年に登場した。2010年には、Googleのインタレストベース広告が登場し、リターゲティングへの広告展開が急速に高まった。
このように、ここ5年は特に急速に「ターゲティング手法」の点において新しいプロダクトが登場し続け、インターネット広告は一層の成長を遂げたとも捉えられるのではないか。
また、この5年の間で「リスティング広告」や「アドネットワーク」といった比較的新しいチャネルも急速に成長を遂げ、広告主が出稿するチャネルも急速に広がった。さらに、デバイスの観点では、前述の通り、モバイル(フィーチャーフォン)やスマートフォンなどの新しい領域が加わり、デバイスも多様化している。
上記で一例を見ていただいた通り、「ターゲティング手法の多様化」「チャネルの多様化」「デバイスの多様化」の3つの軸で急速に進化を遂げてきたのが、近年の広告テクノロジーの進化の特徴である。
(2)2011年の広告テクノロジーの進化~DSPの登場~
そして、2011年は日本の広告市場において、広告テクノロジーの進化が大きく加速している年だと言っても過言ではない。
その主な理由は、RTB(Real Time Bidding)という技術を活用した、いわゆる"DSP"(Demand Side Platform)と呼ばれる新しい広告プラットフォームが登場したからだ。これにより、これまでの広告の概念が大きく変わるかも知れない。
これまで、広告を出稿する際には、純広告に代表されるようにどこの"枠"に広告を配信するのかを考えていた。しかし、DSPの登場により"誰"に広告を配信するのかを考えることが必要となった。つまり、これまでとは違う新しい広告配信が実現できる環境になったのだ。
例を挙げて説明しよう。たとえば、あなたがある女性ファッション誌のマーケティング担当者だったとする。そして、これまであなたは、色々な所に屋外広告を出してきた。表参道の駅や代官山の駅などの壁面広告にである。
その際、表参道や代官山を選んだ理由は、おしゃれ好きな女性が多く訪れるからであった。しかし、今後、あなたはこう考えることになる。「おしゃれ好きな女性」にだけ広告を出そう、場所は特に問わない、と。
この場合に、もしDSPのような配信形態が実現できれば、様々な駅や路上の広告枠がネットワーク化され、歩いてきたユーザーが「おしゃれ好きな女性」であった場合だけ、広告が出せることになる。
つまり、表参道にある広告を男性が見た場合には、広告を出さなくてよくなるので、非常に効率的にターゲットとする人のみに広告配信が可能となるわけだ。
もちろん、このたとえ話は架空のもので、リアルな世界では少なくともまだ一般的な広告手法ではない。しかし、インターネット広告の世界はもうその領域まで来ているのだ。この進化は、2011年現在、広がり続けているテクノロジーであり、目を離せない進化する広告テクノロジーである。