美咲は呆然としていた。
今までまとめブログで多くの炎上事故と個人情報を特定され、晒された人たちを見てきたが、多くはツイッターで実名や勤務先、顔写真を公開しているユーザーだった。「ニックネーム、勤務先の記載なし、プロフィール写真はイラスト」の匿名ツイッターユーザーと特定個人が、まるでパズルのピースを組み合わせていくように結びついていくさまを見て、初めてソーシャルメディアというツールのリスクや怖さを知った気がした。
驚いたわ……。でも、私たちがいまやらなきゃいけないことは、「いったい何が起こったのか」「どのようにして個人が特定されたのか」という事実や背景の確認だけでなく、それによる炎上プロセスがいまどのステージにあるのかをできる限り正確に判断し、日本ビバレッジとしての最適な対応策を導き出すことよ。時計を見ると、針は12時20分を指していた。調査の残り時間はあと40分。うかうかしてられないわ、さぁ、急がなきゃ!
続いて炎上ステージについて調査を進めた。クチコミ分析ツールを使って、日本ビバレッジのツイート件数を調査してみると、平常時対比で 倍以上に跳ね上がっている。時系列で見ても、今朝のニュースサイトの影響もあり、ツイート件数がぐんぐん伸びていることがわかった。まずいわ……、このままだともっと騒ぎが大きくなってしまう兆候よ。至急、適切な対応をとらなきゃ!
そこに拓也が新たな情報を見つけて、美咲を呼んだ。
「美咲さん、すでに簡単な『まとめwiki(注9)』ができつつあるようだよ」
「えっ!もう 」
「うん。思ったよりも動きが早いね。お客様相談室には今朝から電凸(でんとつ)(注9)が増えていると思うけど、まとめwikiには早くも『電凸マニュアル』が公開されている。『こういうトークをしてうまく情報を引き出せ』って趣旨のね」
「それじゃあ、オペレーターとの会話の様子が録音されてユーチューブにアップされるのも時間の問題かもしれないわ」「そうだね。電凸はいったん始まると数日間の間、執拗にかかってくることがある。早くきちんとした情報を開示して、電凸そのものを減らさないと、お客様相談室の現場に相当な負荷がかかってしまう」「電凸を受けるオペレーターの方の精神的負荷は相当なものよ。急がなくちゃ!」
まとめウィキと読む。ここでいうまとめwikiとは、炎上発生時において不特定多数のユーザーが様々な関連情報を共同で整理・アップデートしていくサイトを指す。内容として、事件の概要、問題の趣旨、相手企業の不備と望む対応のほか、電凸やメル凸、デモなどの具体的方法について情報が共有される場所にもなる。
「でんとつ」と読む。炎上発生時に企業や団体などに電話をし、ことの真相や今後の対応について意見を問いただす行為を指す。電話突撃または電話突撃取材がネットスラング(インターネット用語)になったもので、単に「凸(とつ)」と言われることもある。関連して、メールで突撃することを「メル凸(めるとつ)」という。
続きは3月19(月) 12時に公開予定です。ぜひご覧ください!
『ソーシャルメディアマーケター 美咲2年目』出版記念図版データ公開中!
出版記念に合わせ、本書で掲載されている図版データを公開しています。ぜひご覧ください!
