SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第107号(2024年11月号)
特集「進むAI活用、その影響とは?」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

COLUMN

リスティング広告市場のアドテクノロジー活用から読み解く、ディスプレイ広告市場の未来(後編)


 前回に続き、リスティング広告と自動入札ツールの市場動向について紹介する。今回は、なぜ2012年に入り自動入札ツールの導入件数が急増しているのか、その背景を探る。

背景にあるリスティング広告市場の現状と広告代理店の事情

 環境の変化を読み解くキーワードは「利益重視」と「新規マーケットの開拓」である。

 PC向けリスティング広告市場は、2000年代後半に急速なスピードで成長をし、インターネット広告市場を牽引した。この間、市場への参入が相次ぎ代理店間の競争は激化、広告代理店各社は厳しい競争環境にさらされた。各社は売上の拡大を最優先し、マージンを削り、ディスカウントにより大手顧客の獲得してきた。

 その後市場の拡大とともに売上も急増した。だが最近は、大手広告主向けのリスティング広告市場は飽和状態に近づきつつある。そこで、広告代理店各社は、売上拡大路線から、利益重視路線へと転換し、業務体制の効率化を進めている。ここに自動入札ツールの導入が近年急増している理由がある。

 広告代理店のリスティング広告運用業務は、非常に作業工数がかかる。大手広告代理店では、業務を細分化し、マニュアルワークで出来る業務については、少しでも人件費を抑えるため、オフショア開発や国内でのアウトーソーシングに委ねるなどの取り組みもしてきた。

 だが必ずしもうまくいくとは限らず、既に開発拠点を撤退したケースもある。確実な利益を生み出すため、どのよう業務フローを作り上げるべきか……。試行錯誤を重ねながら、自動入札ツールを組み込んだオペレーションにたどり着くケースがあるのだ。

 ある広告代理店では、取扱い案件のうち、月額予算規模が比較的大きなキャンペーン案件の運用において、そのほとんどをリスティング広告運用業務を専門に行なう子会社で担当者が手作業で運用している。一方、予算が月額20万円程度のキャンペーン案件については自動入札ツールを使い、極力人手による作業を排除して、収益を確保しているとのことだ。

 つまり、売上重視から利益重視への方針転換によって、人力のコスト削減では限界に達した広告代理店が、自らの負担で自動入札ツールを導入し、更なるオペレーションの効率化を図らなければならない状況が生まれているのである。

 一方、これまで代理店がメインターゲットとしてきた月額百万円以上の広告主は、ほぼ開拓され尽くしており、これ以上のマーケットの拡大は見込みづらい。既存の広告主も、代理店同士の激しい奪い合いにより常にマージンは強い値下げ圧力がかかっている。

 そこで代理店が活路を見いだそうとしているのが、月額予算が数十万円程度の広告主層である。この領域は、大手広告代理店がほとんど参入してこなかった領域で、まだ開拓の余地がある。成熟期に近いと言われるリスティング広告市場において、実はまだ手付かずの領域なのだ。

 だが残っているのには理由がある。それは収益を確保するのが難しく、「儲からない市場」だったからに他ならない。

 広告代理店が月額数十万円規模の広告主の広告予算を預かった場合、その粗利は数万円である。このくらいの予算規模の広告主に対して定期的なレポーティングをおこない、月1~2回訪問をすると、人件費を勘案した広告代理店の利益は極めてゼロに近づく。

 こうした市場を、運用やレポーティングを自動化することで、「儲からない市場」から「儲かる市場」に変え、マーケットを拡大しようというのが、もう一方の動きなのである。

 代理店側の環境変化を主因とする自動入札ツールの導入は、今後も急ピッチで進展していくであろう。また広告主による、自動入札ツールを用いた媒体への直接出稿需要も今後加速する可能性もある。このことを踏まえ、シード・プランニングでは、2015年におよそ3500件の自動入札ツールの普及を予測している。

国内自動入札ツール導入件数の予測 2010年-2015年(シード・プランニング作成)

自動入札ツールは他メディアを含むマーケティングプラットファームへ変化か

 最後に、自動入札ツールの今後の展開についても予測してみたい。

 冒頭にも触れたように、自動化の流れはリスティングだけにとどまらず、ディスプレイでも起こっている。アドテクノロジーの普及にともない、今後広告代理店のディスプレイ広告取扱い業務は、従来の枠売りスタイルから、リスティング広告と同様の運用スタイルに変化していく。

 これまで広告代理店にとり、ディスプレイ広告とは、あくまで取扱い業務という観点では、リスティング広告ほどの手間はかからず、比較的収益性の高い広告商品であった。

 だが今後は、ディスプレイ広告もリスティング広告と同様に手間を掛けて運用管理をする必要が出てくることになり、より作業工程の長い業務体制を構築する必要が出てきている。これは、広告代理店にとってはコスト増につながりかねないことであり、ここでも効率化のニーズが高まるであろう。

 そうした流れから、リスティングとディスプレイを単一のツールで行うニーズが高まると予想される。そのような流れは、既にGoogle AdWordsが、一部実現してきたが、今後は特定のプラットフォーム上ではなく、市場全体において、両者の流通は一体化する方向に向かうことが想定される。

 実際に、欧米ではEfficient FrontierやIgnition One、Kenshooなどの自動入札ツールは、DSP機能やソーシャルメディアマーケティグの管理機能などを実装、既にリスティング広告自動入札ツールの次のステージへと進んでいる。

 恐らく国内でも、導入が進んでいる国産の自動入札ツールが、広告代理店や広告主の要望を取り込みながら、近い形で進化していくと思われる。そうして、自動入札ツールは、リスティング広告に限定されないディスプレイ広告やソーシャルメディアなど、キャンペーン全体の運用を管理するマーケティングプラットフォームへと姿を変えていくであろう。もちろん逆に国内の主要DSP(Demand-Side Platform)がリスティング管理機能をする動きも当然ながら考えられる。

 リスティング広告とディスプレイ広告、違う時間軸や発展形態で進化してきた両者が融合していき、数年後のインターネット広告の流通の姿は、今とは随分と様変わりしているのではないだろうか。

調査レポート発売のお知らせ

 いまインターネット広告市場では、アドテクノロジーの進展により広告流通が急速に自動化している。シード・プランニングでは、広告流通の現状と今後、アドテクノロジー業界についての動向を、調査レポートにまとめて発刊する予定である。詳細はこちらへ

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
COLUMN連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

野下 智之(ノシタ トモユキ)

株式会社デジタルインファクト 代表
ExchangeWire.jp 編集長

1983年設立の市場踏査会社、株式会社シード・プランニングの独立プロジェクトとして、2014年10月にデジタルインファクト(Digital InFact)を設立、2016年4月に法人化。

デジタル領域を対象とする市場・サービス...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2012/07/24 12:02 https://markezine.jp/article/detail/15925

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング