ネット企業にとって、データを分析・活用することがビジネスのコア
「“ビッグデータ”というのは、すさまじい破壊力をもった、本当に強力なキーワードだと思う」と語る森氏。
「“クラウド”という言葉は、多くの企業にとってインフラの運用をアウトソースすることによるコスト削減の話だった。しかし、“ビッグデータ”は、新しいビジネス領域が広がるかもしれない、売上を上げていくことにつながるかもしれない話。これに乗り遅れまいとする企業が多いのではないか。」
企業におけるデータ活用は、今に始まったものではない。POSデータは昔から活用されている。しかし「従来の企業とインターネット企業におけるデータ活用の大きな違いは、サービスの本質の違いにある」と森氏は語る。インターネット企業の場合、提供するサービスそのものが顧客とのコミュニケーションであり、営業マンのトークと同じもの。いかにユーザーにとっての価値を高めるかもそこで決まる。また、インターネットでは、サービスを少し変えるだけで即座にユーザーの反応が得られる点も大きい。
「データを分析して反映すると、次の瞬間にすぐレスポンスが来て、短いPDCAで改善ができるというところがインターネット企業のビジネスのコア部分。だからこそインターネット企業にとっては、データを分析して活用することが、ある意味ビジネスはそれだけしかないといっても過言ではないくらいに本質的なものである。」
3つのビッグデータ関連部署
楽天グループには、ビッグデータに関連する3つの部署がある。グループコアサービス部、森氏が所長を務める楽天技術研究所、さらに今年2月に「ビッグデータ部」が創設された。
楽天グループは50以上の事業を展開しており、そこには多種多様なデータがある。それらのデータを全部活用できているわけではないが、主要なデータは「楽天スーパーDB」というデータベースに格納し、分析・解析して事業横断的にビジネス活用しているという。
データベースの中にある顧客データに対して、マーケターが仮説にもとづいて分類、クラスタリングし、そのクラスタリングしたグループによって細かいアプローチを行う。たとえば、ページに出すバナーを出し分けることで、コンバージョン向上に役立てることができる。
レコメンデーションに立ちはだかった「村上春樹問題」
レコメンデーションのプラットフォームは楽天技術研究所が構築した。しかし、最初に着手した「楽天ブックス」の商品推薦で直面したのは「村上春樹問題」だった。
「村上春樹さんの著作は、日本では老若男女が読んでいる。したがって、どの本を見ても村上さんの本が推薦されてしまう事態になった。『ONE PIECE』を読んでる人にも『ハリー・ポッター』を読んでる人にも『1Q84』が推薦されてしまう。一度“村上春樹クラスタ”に入るとビジネス上困ることになるので、そこをどうするのかを考える必要があった。」
また、森氏は「レコメンデーションの売上に対するインパクトはとてつもなく大きい。レコメンドの精度は、多様なデータを組み合わせて分析すればするほど上がるのはわかっている。レコメンデーションは使い古されている技術だが、いまだに研究、チャレンジが行われている」と、マーケターにとっておなじみの手法が、大きなポテンシャルを秘めていることを強調した。