広告・マーケティング領域でのデジタルデータ活用にフォーカス
ad:tech digital data summit 2012は、シドニーの中心街にあるヒルトンホテルで開催された。講演とネットワーキングタイムのみの構成となるため、他のad:techと比べると規模は小さく展示ブースもない。参加者も300人ほどで、広告主、代理店、データプロバイダー、媒体関係者、アカデミック領域の仕事に従事している人が参加していた。所属部署はさまざまだが、職種としてはデータアナリストやデータを扱うセクションの責任者が圧倒的に多い印象だった。
本カンファレンスのテーマは「広告・マーケティング領域でのデジタルデータ活用について」となり、専門トラックが2つの構成だ。Track1-Data Driven Marketingはマーケティング担当あるいはブランドマネージャの視点でのデータ活用について、またTrack2-Data Driven Advertisingはアドテクノロジー関連でのデータ利用について議論が交わされた。
オーディエンスデータの価値は量から質へ
全体セッションに登壇したのは、News Limited(ルパード・マードック氏率いるオーストラリア発のメディアコングロマリット)のStuart Spiteri氏。マス媒体のイメージが強いNewsグループだが、これまで培ったメディア運営力を活かしWeb媒体の運営も行っている。Googleから移籍したSpiteri氏は、同社のWeb媒体の可能性を探っている最中だ。
講演の主なテーマは、“オーディエンス属性の価値の転換”について。広告媒体としての、Web媒体の最大の強みは、“質の高いオーディエンスに対して的確なアプローチができ、アクションに促せること“にあり、それを説明するためのデータ分析結果や利用方法が紹介された。
News Limitedグループ各紙では“Digital Pass”という、有料の電子版新聞を展開しているが、その購読者は一種のセグメントされた層であるため、“広告主によっては非常に魅力的な広告ターゲットになりえることが分析から得られた”と語る。
例えばカンタス航空の場合、Digital Passの購読者は“非会員に比べ6.4倍もカンタス航空に乗るのが好ましい”と答え、“1/5がすでに利用したことがあり”、“全体平均の2倍の頻度でカンタスに乗り”、“顧客単価も2倍”という分析結果が得られたという。
このようにきちんと分析して価値を見い出し、それを利用することで媒体側はもちろん広告主にとっても利益になるのだ。この現実について、Stuart Spiteri氏は「データ分析はいまや企業の生命線だ」と表現した。
続いて、大手ディスカウント百貨店チェーン「ターゲット(Target)」を展開する、ターゲット・コーポレーションの事例も紹介した。ターゲット・コーポレーションでは購買履歴をもとにセグメント(特に女性)を作っており、それぞれのセグメントに合ったカタログを送っている。
実際にあった例だが、ある女性のステイタスが“妊娠セグメント”となったので、“妊娠・子育て系カタログ”を送付したところ、「うちの子は妊娠していない」と父親からクレームの電話がマネージャーあてにかかってきたという。
マネージャーが平謝りして、なんとかその場は収まったが、その二日後またその父親から電話があったようだ。電話は「やっぱり妊娠していました、クレームの電話をかけてごめんなさい」という内容だったという。「データを見ればなんでもわかる」という点を表現した話だが、このようにデータ分析がビジネスにしっかりと組み込まれているという事実を知ることも重要なことである。
この講演全体を通じて、非常に興味深い分析の結果と応用例が紹介されたものの、なぜそうなのかという、より深い洞察についてはあまり言及されなかったのが残念な点である。