コールセンターに集まるデータが新たな価値を生み出す
MarkeZine(以下MZ):今回、トランスコスモスから分社化するかたちで、CRM分析・コンサルティング専門子会社トランスコスモス・アナリティクスを設立されました。この経緯について最初におうかがいします。
河野:よく「なぜ分社化するのか」と聞かれるのですが、一番大きいのはスピード感。この世界は、技術の進歩が非常に速い。そのスピード感に柔軟に対応していかなければなりません。
ふたつ目の理由は人材です。このビジネスは人材が命ですが、日本にはリサーチャー、データサイエンティストが少ない。そこで優秀な人材を採用するために、トランスコスモスグループ全体のブランドを「マーケティングに強いトランスコスモス」にシフトするため、思い切って分社化して別ブランドとして打ち出すことにしました。
萩原:トランスコスモスの事業は、コールセンター、BPO(Business Process Outsourcing)、デジタルマーケティング、これらが主要な3分野です。コールセンターの運用を請け負うとログが残ります。お客様の不満や意見、「VOC(Voice of Customer)」がたまっていく。コールセンターは顧客対応のためのコストと考えられがちですが、そこに集まるデータがマーケティング的な価値を持つ。顧客接点という意味では、マーケットリサーチと同じくらいの意味があります。
河野:デジタルマーケティングにおいては、プロモーションひとつとっても「勘と経験で」というのが日本ではまだ主流です。しっかり集まったデータをもとに仮説をたてて、それをもとに施策を立案して、実行した結果どうだったのかというPDCAをきちんとまわしていくところが一番大事だと考えています。
萩原:トランスコスモスの場合、データ分析もやりますが、分析結果をコンタクトセンターなどのCRMの業務プロセスに落とし込んだり、ウェブサイトユーザビリティやインターネット広告プランニングに反映させることができます。
我々が持っているCRM関係のチャネルにデータを入れて、ROIを上げたり、PDCAがきちんとまわるようにすることが顧客にとって価値があるのではないかと思います。
金融工学とデジタルマーケティングの類似性
MZ:河野さんはトランスコスモスにいらっしゃる前は、金融工学にたずさわっていたということですが。
河野:私の前職時代、コンサルティングチームを立ち上げて金融工学をやっていました。金融工学が何をやっているのかと言いますと「過去のデータから将来を予測すること」なんですね。
MZ:それは、今まさにマーケティングの世界でみんながやりたいことですよね。
河野:お客様の行動、購買履歴、VOCから、将来のお客様の行動を予測する。たとえば「向こう3か月以内に解約しそうなお客様はどんな人?」ということが、金融工学的なアプローチであぶりだせる。そういう人たちが実際に「やめます」とコールセンターに電話をかけてくる前に、こちらからアウトバウンドで「何かお困りな点、ご不明な点はございませんか?」と働きかけることで、解約を防止することができます
ですから、マーケティングの世界とやってることは同じです。ただ、唯一違うのは、金融工学の世界は非構造データがないんです。最近は、ツイッターの書き込みから株価を予測する研究もありますけどね。
萩原:金融取引に比べると、マーケティングの世界は人間の生活そのものです。デジタル化は難しいと思われていましたが、現在はオンラインになって行動・意識がどんどんデジタルデータ化しています。
河野:しかし金融工学は、サブプライム問題や欧州危機を引き起こしてしまった。「過去の傾向が将来も続く」という仮定のもとに予測していたので、どこかに不連続点があると、とたんに金融工学の技術は通用しなくなってしまう。これはマーケティングで行動を予測するときも同じだと思います。
萩原:金融業界は、株取引で一番効果を出すようなモデルを考えました。今、ネット広告業界も数式で最大化すると言っています。しかし、広告はエモーショナルなものです。行動ターゲティングやリアルタイムビッディングが進みすぎると、ちょっとうっとうしいとか気持ち悪い、そういうところが出てくる。ただ、やはりアドバタイジングにテクノロジーが入ってきたように、今後はCRMにデータテクノロジーが入ってくるのは間違いないと思います。