信用リスク管理とデータドリブンマーケティングは、表と裏の関係にある
いずれの施策も信用リスク管理で使用するのと同じデータベースと、同じ統計的数理モデルを活用することで実現可能である。つまり、信用リスク管理とデータドリブンマーケティングは統計的数理モデルの目的変数(ゴール)が表と裏の関係にあるだけで、IT環境とその分析のアプローチは基本的には同じである。
にもかかわらず、日本のクレジットカード会社では、信用リスク担当者は信用リスクだけ、マーケティング担当者はマーケティングのみを考え、極端なケースになると利用するデータベースも異なり、二重のIT投資、人材投資をしている。実にもったいない。
この問題は、縦割りな日本的組織構造に起因するところも大きいが、ビッグデータを分析するデータサイエンティストがこうした本質を理解しておらず、単なる「分析屋」になり下がっている点も大きな問題であると考える。
不足するデータサイエンティスト
最も大切なことは、蓄積されたデータから、ビジネス上有益な仮説をあらゆる視点にもとづき、いかに短時間に正確に導き出せるかにある。この仮説を導き出すデータサイエンティストにはビジネスに対する深い理解と、基礎的な統計知識(データマイニングツールを使いこなしその結果を解釈できる)、基礎的なITスキル(最低でも自分でSQLが書ける)が要求される。
しかしながら、このような複数の素養を兼ね備えた人材が欧米に比べ日本では極めて少ないことを筆者は大変危惧している。マッキンゼー・グローバル・インスティチュートのレポートによると、2018年には14万~19万人のデータサイエンティストが世界的に不足すると予想される。
データサイエンティストに求められるスキルは座学で簡単に習得できるものではない。大学教育で基礎的な経営学、統計学、情報工学を学んだうえで、企業内OJTをベースとした場数を踏む以外に優秀なデータサイエンティストを育成する方法はない。しかし、組織が縦割りで硬直化した日本企業においては、複数部門を戦略的にローテーションさせ、OJTの機会を与え、組織的にデータサイエンティストを育てる戦略的な人事制度も、それを実践する余裕もないのが実情ではないか。個人的には、2013年に新設される明治大学の総合数理学部の取り組みに共感すると同時に、今後、優秀なデータサイエンティストの卵を多数、社会に輩出することを期待したい。