eビジネスのイノベーションは、デジタルデータをビルトインした新ビジネスの創出
今回のテーマは、イノベーションです。イノベーション論のルーツともいうべきシュムペーターを取り上げてみましょう。
シュムペーター(1920)が問題にするのは、均衡状態に向かう経済循環ではなく、経済体系内から自発的に起きる変化です。すなわち、非連続的変化をもたらす経済軌道の変更、革命の発生です。
こうした発展の形態は、次の5つを含む新結合によって達成されると言います。そして、新結合を遂行していく新しいタイプの経済主体を、起業家(訳書では企業者)と呼んでいます。
経済革命を達成する、5つの新結合
- 新しい財貨
- 新しい生産方法
- 新しい販路の開拓
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
- 新しい組織の実現
eビジネスのイノベーションとは、従来のヒト・モノ・カネなどにデジタルデータという新しいリソースをビルトインして新結合をデザインし、収益を生むビジネスを創出することだといえます。
では、上の5つを具体的に当てはめてみるとどうなるでしょうか。まず新しい財貨では、電子マネーやゲーム内の仮想通貨など、シュムペーターの時代には想像もつかないようなデジタル財貨が存在します。新しい生産方法では3Dプリンター、販路の開拓と供給源の獲得ではWebを活用したマーケティング・チャネルの開発やサプライヤーの開拓、さらに新しい組織、すなわち「独占的地位の形成あるいは独占の打破」(同,p.183)に該当するものとして、米国のグーグル、中国の阿里巴巴集団(アリババ・グループ)、日本の楽天経済圏などが挙げられます。
eビジネスに「5つの新結合」を当てはめてみると…
- 新しい財貨……電子マネーやゲーム内仮想通貨
- 新しい生産方法……3Dプリンター
- 新しい販路の開拓……Webを活用したマーケティング・チャネルの開発
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得……Webを活用したサプライヤーの開拓
- 新しい組織の実現……グーグル、アリババ、楽天による経済圏
ビッグデータが引き起こすイノベーションは「顧客との接点」にあり
ビッグデータが引き起こすイノベーションは、基幹業務システムや組織などの「創造的破壊」を目指すというよりも、市場や社会で日々増殖しているデジタルデータによって、組織の情報流を変革するのが特徴です。
ビッグデータによる新結合として、最も注目すべきところは、直接・間接を問わず事業の売上に直結しうる顧客との接点部分だといえます。一例を挙げれば、「雨が降ってきそうになったら、近くで最も安い傘の売っている店を直ちにスマホが教えてくれる」など、究極のOne to Oneマーケティングの実現です。
一般化すると、4P活動の増力化、リアルタイム化、顧客・市場・社会とのリレーションシップ強化、マーケティング・リサーチの同期化などが該当します。個別商品レベルを離れて事業単位に拡大して、アンゾフ(1965)のマトリックスを当てはめると、市場浸透、市場開発、製品開発、多角化のいずれの領域についても可能性があることがわかります(表参照)。
ビッグデータ・イノベーションを先導する企業は、事業基盤がすべてデジタル化されている、いわゆるボーン・デジタル企業(たとえばWebを基盤にした物販業者)を筆頭に、競争が激しく、商品のアイテムが多く入れ替わりも激しい、最終消費者を相手にしたB2C企業(たとえばコンビニエンスストア)、あるいは社会・環境データとの新結合にチャンスを見出している企業(たとえばGPSデータの活用を積極的に進めている自動車メーカーなど)などです。
一方、ソリューションを提供するベンダー側は、上記のような企業群のニーズに応えたり、ニーズを発掘するところに大きなビジネスチャンスがあります。しかしながら、基幹業務やITプラットフォームの全面刷新を必ずしも必要とするものばかりではないため、ビッグデータのトレンドがどれだけIT業界の底上げに貢献することになるのかについては、さまざまな意見があります。
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