「付加価値」に混在する、2つの意味
今回のテーマは、付加価値です。価値ということばについて、かつてマイケル・ポーターはこう述べています。
企業が創造する価値は、買い手が製品またはサービスに対して喜んで支払う金額の全体によって測定できる。もし製品の創造する価値が価値活動を実行するコストを上回るならば、企業は利益を得る。競争業者に対して競争優位を得るには、企業はこれらの活動を、より低いコストで行うか、あるいは差別化や高価格(価値が高い)を実現するかを行わなければならない。(Porter, 1985,p.150)
ここに、ポーターの競争戦略のエッセンスがあります。
付加価値ということばで気をつけなければいけないのは、そこに2つの意味が混在していることです。それは、顧客サイド(外部)からみた場合の付加価値と、マネジメントサイド(内部)からみた場合の付加価値の2つです。
前者は「上司から付加価値の高い製品を作れといわれた」などという際に使われる一般用語で、このときの「付加価値」は、製品(またはサービス)に付随するプラスアルファ部分を指しています。たとえば、デジタル機器に欲しいソフトがバンドルされていたなどが典型例で、顧客は売価に見合った期待を超える部分が大きいほど、それだけ「喜んで支払ってくれる」ことになります。
後者は(本来の付加価値の意味はこちらですが)、P/L(損益計算書)の費目から付加価値を計算するもので、バリュー・チェーンのなかで当該企業のオペレーションによって新しく付加された部分を指します。計算方法には2つの考え方があって、利益から必要な費目(内部オペレーション部分)を積み上げていく「加算方式」と、売上高から外部調達部分を減じて特定する「控除方式」があります。
ビッグデータによる付加価値創出
ビッグデータは、どのような付加価値をもたらすのか? この問いに答える際も、上記にならって考えるとわかりやすくなります。ビッグデータの対象範囲は広いので、以下ではマーケティング関連を中心にみていきましょう。
1つ目の「顧客サイドに立った製品・サービスに対するベネフィットの付加」はどうでしょうか。CRM(Customer Relationship Management)の一環としてサービスを付加する、さまざまなアイデアが浮かびます。ビッグデータ活用の例では、スマホから位置情報を得て、店舗近くにいる顧客にクーポンを配布するサービスなども考えられます。これは、顧客の購買履歴からもっとも興味を持ちそうな商品を紹介する、従来の「レコメンデーション」機能の発展系ともいえます。
ただし、CRMが行き過ぎると「顧客を口説くのではなくストーキングすることになる(Stalking, Not Wooing, Customers)」(Rigby et al.,2002)と以前から指摘されており、顧客の位置情報の利用に対し「ロケハラ」という造語も生まれています。ビッグデータのマーケティング活用では、一歩間違うとプライバシー侵害になる危険も孕んでいます。
2つ目の「企業内部にもたらす付加価値」はどうでしょうか。最もわかりやすい内部活用例は、ビッグデータを取り込んで意思決定を高度化するというものですが、もう少し具体的に、省力化と増力化の側面からみていきましょう。
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