古くて新しい問題「マーケティングリサーチ不要論」
ここ数年、マーケティングリサーチは使えない、必要ないという話をよく耳にするようになりました。よく引き合いに出されるのが、アップルのスティーブ・ジョブズでしょう。彼は、新しい商品やサービスを考えるときにマーケティングリサーチに頼らない、頼ってはいけないと言ったとされています。なぜなら、消費者は自分たちが欲しいものをわかっていないし、彼らが欲しいと言ったものを提供してもうまくいかないから、と。
このような指摘は今に始まったことではありません。日本でもソニーの盛田昭夫氏や、ホンダの本田宗一郎氏も同じような考え方をしていたと言われています。さらに古いところでは、自動車を作ったヘンリー・フォードも「顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと速い馬が欲しいという答えが返ってきただろう」と言ったとされています。つまり、マーケティングリサーチ不要論は今にはじまったことではなく、古くから指摘されていた課題だということです。
しかし、アップルやソニー、ホンダといった企業が消費者を理解することを疎かにしているわけではありません。むしろ貪欲に、深く消費者を理解しようとし、そこで得られたことに基づいて商品開発やマーケティングが行われていることが、彼らについて書かれた本などをしっかり読むと理解できるはずです。
新しいマーケティングリサーチ不要論
このように、古くからある「マーケティングリサーチ不要論」に対して、最近は「ビッグデータやソーシャルメディアがあるのだから、これまでのマーケティングリサーチは要らない」という声も聞かれます。たしかに、ここ数年のITの進化によりデータはどんどんデジタル化し、企業はさまざまなデータを手に入れることができるようになりました。
たとえば、ネット上の顧客のなにげない発言やつぶやきから、アンケートなどをしなくても、顧客の気持ちが把握できます。検索ワードなどを見ても、世の中でどんなことに関心が持たれているのかがわかります。インターネット上の購買を追いかければ、購入傾向から推奨商品を絞り込むこともできます。もっと言えば、アクセスや販促、購買、問い合わせに関する履歴やアンケートへの回答、ネット上にあるソーシャルメディアの発言などすべての情報を関連づけることで、個人としての行動や人となりを理解することができるようになり、ひとりひとりに対して、より効果的なマーケティング活動を行うことが可能になるかもしれません。
このように、これまでアンケートやインタビューを行うことでしか得られなかったデータ、あるいはそれ以上のデータを入手することが可能になっています。また、それらがデジタルデータであるために、バラバラだったデータを統合し、分析することもできるようになりました。
しかし一方で、データが直接役に立つ情報になるかというと、そうではありません。データから情報を引き出すには、それなりの知識や技術が必要とされますし、このことは多くの人が指摘しています。