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FEATURE

ウォルマート社の高度なオムニチャネル解析を支えるデータアナリスト集団と米国のデジタルマーケティング教育【eMetrics 2013速報】

ウォルマートが実践するオムニチャネルアナリティクス

 eMetrics初日の最初の基調講演は、ウォルマート社のウェブ解析&最適化のシニアリーダー Balaji Ram氏が「Omnichanel Analytics at Walmart」というテーマで、同社が実践するオムニチャネル環境のビッグデータ解析について紹介しました。

 ウォルマートは日本の西友をグループ傘下にもつ、言わずと知れた世界的企業です。スーパーマーケット店舗事業だけではなく、オンラインショッピングをはじめ、さまざまな事業をオンラインで展開する複合企業でもあります。eMetricsは、朝8時から集まったメンバーで意見交換会が開催されるのですが、初日に、ウォルマートの方とご一緒する機会があり、お話をお伺いしたところによると、データサイエンティストチームは本社のコアメンバーだけで、数十名にのぼるとのことでした。

オムニチャネルアナリティクス実践のための3つのフェーズ

 ウォルマートは、以下の3つのフェーズを設け、これらを実行することで、オムニチャネルアナリティクスを実現しています。

  • フェーズ1 全社における解析基盤の構築
  • フェーズ2 全社チャネルの最適化
  • フェーズ3 グループにおける次なる課題への取り組み

フェーズ1 解析基盤の構築

 まずは、社内における体制の構築です。本社のコアメンバーだけで数十名のデジタルアナリストを登用しているとのことですが、メンバーが保有するスキルによって以下のように分類し、デジタル解析の体制を構築しました。

  • データ・エンジニア(ビジネススキル10%+テクニカルスキル90%)
  • データ・ディテクティブ(ビジネススキル25%+テクニカルスキル75%)
  • データ・サイエンティスト(ビジネススキル75%+テクニカルスキル25%)
  • ビジネス・アナリスト(ビジネススキル90%+テクニカルスキル10%)

 ビジネス的視点と解析技術からの視点を持ち合わせた人材がデジタルアナリストとして、ウォルマートのデジタル解析の基盤を担うために配備され、このメンバーがウォルマートのマルチデイバイスに対応したウェブにおいて、下記の解析サイクルを回しています。

 日本では、こういった明確なスキルセットの配分や考えかたがまだ浸透していないと思います。今後の人材の配置に非常に参考になる事例と考えます。

フェーズ2 全社チャネルの最適化

 ウェブ、スマートフォン、ソーシャル、コールセンター、タブレットなど、ウォルマート社にはユーザーとの多くの接点があります。これらの最適化について、数多くの取り組みからいくつかの事例が紹介されました。

 ウェブにおいては、「直帰率の改善=ページ価値の拡大」というゴールに対して目標値を明確に掲げ、マーケッターはウェブの最適化に取り組んでいるとのことです。その中でも「取り組むべきこと」「取り組まないこと」についても明確に分け、テストを繰り返しています。直帰率の改善については、ランディングページのデザイン変更により効果を上げる取り組みを集中して続けています。また、デザイン改修だけではなく、新しい機能の追加も行い、積極的にテストを繰り返しているとのことです。

 例えば、ウォルマートサイトのトップページの「Trending」機能などは、データ解析による取り組みのひとつです。この機能は、いまウェブで見られている人気の商品、数多くソーシャルメディアに拡散された商品、ベストセラー商品など、まさにいまどんな商品がウォルマートで人気があり、おすすめなのか、リアルタイムのトレンド情報を見ることができる機能です。

 スマートフォンにおいては、ウェブとコンテンツの見られ方が違う、ウェブよりも店舗検索の利用が非常に多い、価格チェックや在庫チェックの利用頻度が高いなどのデータが得られている中で、マルチデバイス環境における解析手法とKPIの定義を統一し、最適化を図っています。目標の設定とチーム一丸となった徹底したテストを各チャネルにおいて継続して実行することが、オムニチャネルの最適化を実現しています。

フェーズ3 グループにおける次なる課題への取り組み

 また、ウォルマートでは、モバイル、コールセンター、ブランド、店舗、サイトUXなどのすべての領域における、一貫した顧客満足度の計測、在庫適正化、タブレット向けのウェブ最適化が課題として挙げられていました

 セッションの最後にはQ&Aコーナーがあり、チーム体制についての質問が出ました。「デジタルアナリストは、組織横断的な集中チームにするか? それとも各事業ごとに人材を配備するか?」という質問です。

 Ram氏は「組織横断型の統括チームと独立の個々のチームとのコンビネーションが重要。統括チームでは、ビジネス的な視点から分析を行い、個々の事業部では、SEMや広告などの細かい業務に特化するチームを持つ必要がある」と回答。複合的な事業に取り組む企業においては、組織横断的なアナリストだけではなく、事業に特化した細かいデータを理解するアナリストも必要であるとの意見です。

 組織横断的なアナリストチームで全社のガバナンスを担当し、マクロ目標を達成する。事業特化型のアナリストは、各事業の特性を理解したミクロな目標を達成するというように、デジタルアナリストの役割を明確に分け、それぞれの目的を達成することで全体最適を目指す手法だと理解できます。

重要なのは「人」

 このセッションで随所に述べられていたのは、「重要なのは人」だということです。デジタルアナリストがどういう意思を持って、ビジネスの拡大に取り組めるかが重要だというメッセージが強く打ち出されていました。

 所感として、すべてのデジタルアナリストがエンジニアリング、解析のテクニックだけではなく、ビジネスの経営視点から物事を考えて解析にあたり、会社全体のウェブ、解析のガバナンスを効かせているという現状をセッションで確認でき、非常に高いレベルの組織構築が進んでいると改めて感じました。

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アメリカで進むデータ解析分野の教育プログラム

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この記事の著者

山田 輝明(ヤマダ テルアキ)

NRIネットコム株式会社 クラウドテクニカルセンター 副センター長 兼 営業DX推進担当

2009年にNRIネットコムに入社。デジタルマーケティング事業を立ち上げ、特にGoogleアナリティクス、デジタル広告に関するビジネス拡大に注力。2018年にNRIネットコムから一旦退出し、株式会社MeeCapを設立、スタートアッ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2013/05/13 13:00 https://markezine.jp/article/detail/17720

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