日髙千絵 氏
ソーシャルが流行る前から対話を重視
── まず、御社のオウンドメディアの定義ついて教えてください。御社の場合Webサイトだけでなく、自社店舗、店頭のスタッフも含めてオウンドメディアと捉えることができると思いますが。
MarkeZineには男性読者が多いということで(笑)まずM・A・Cというブランドについて少しお話させてください。M・A・Cは1985年にカナダのトロントでプロのメイクアップアーティストのために考案され、発展したきたコスメティックブランドです。クリエイティブ力が強く、非常にリッチなアセット(資産)を持ったブランドです。
特徴としてはコミュニュティがとても強いことが挙げられます。プロのメイクアップアーティスト、店頭で接客するM・A・Cアーティストたち、お客様の三者間でコミュニティを形成しています。撮影シーンで使われることも度々あり、ミュージシャンや女優など、セレブリティにもM・A・Cファンは多いです。ソーシャルコミュニケーションが注目される前から、対話や社会性を重視してきたブランドであり、その蓄積を活かしつつコミュニティを通じてブランドを拡散させてきた歴史があります。
現在はWebサイト・ソーシャルメディア・Eコマースといったデジタル領域、店頭、イベントなどのリアル領域、双方でお客様とのコミュニケーションを図っているため、これらの領域全てをオウンドメディアと捉えています。
お客様とのコミュニケーション方法も一般的なブランドとは異なります。例えば広告を利用する際、商品に触れてもらうためにコンテンツがあり、それに触れてもらうために広告を利用するのが一般的ですが、M・A・Cはコミュニティが強いためそのようなやり方のマーケティングは行なっていません。
外向けと内向けでコンテンツを使い分ける
── コミュニティが中心にあり、デジタルや店頭などのオウンドメディアがある構造なのですね。ラグジュアリーブランドの多くは、デジタルよりも紙媒体を中心にコミュニケーションを行う傾向が強かったと思います。御社の場合はどのように変化しているのでしょうか。
おっしゃるとおり、これまで紙媒体を中心にコミュニケーションを展開してきたため、デジタルでの展開に苦労されているブランドさんもあると思います。一方、M・A・Cの場合は当初からマス広告という考えがなく、コミュニティでファンを拡大してきたので、ブランド自体がデジタルとの相性がよいと言えます。日本ではまだ全て利用していませんが実は動画コンテンツも多く保有しています。
YouTubeで一般に公開されているシニア アーティストのハウツーなどもありますが、ほとんどはインターナル(M・A・Cアーティスト)向けに発信されています。日本でも年に50回ぐらい新しいコレクションリリースがあり、その都度世界観を伝える動画コンテンツをグローバルで作っています。多くの一般のお客様にも接してほしいのですが、ビジュアルライツの関係で、公開されていないものがたくさん存在します。
私たちにとっては、M・A・Cアーティストがまず第一のカスタマーであり、コアのブランドファンと考えています。動画を見てブランドやコレクションへの理解をより深めることで、彼ら自身が発信力を高めるきっかけにつながっていると思っています。動画以外にも一般の方々が触れることがないオウンドメディアがあります。マックジーンというインターナルでしか展開していない紙媒体も定期的に発行しています。